※現パロ



あれでもないこれでもないと鏡の前で念入りに自分の姿を見比べて服を選ぶ。
パンツよりもやっぱりスカートの方がいいかな。ショートパンツにタイツもいいかも。
三十分程一人ファッションショーを繰り広げて、結局赤いセーターに膝上の花柄スカート、厚手のタイツと茶色いブーツに決めた。無難だけどまぁ良しとしよう。
それからいつもより気合いを入れて化粧をしてから家を飛び出した。

高校を卒業して大学に入って、彼氏であるアルミンは一人暮らしを始めた。
つい数日前に引越し祝いを兼ねて遊びに行ったけど、引っ越してきたばかりだというのにダンボールとかは既に片付けられていて随分綺麗だった。
私がアルミンと同じ大学に入れたのは最早奇跡に近いと思う。
ちなみにエレンやミカサ、果てはジャンまでも同じ大学に入って、毎日面白おかしく時にやかましい日々を過ごしている。
そんな感じで大学生になってから一週間、ようやく新生活にも慣れて余裕が出来て、家に足りない物を買いに行くんだけど良かったら付き合ってくれない?とお誘いを受けて今日に至る。デートってやつだ。
高校生の時もデートはしていたけれど、大学生になってからは初めてだから何だかちょっと緊張する。

待ち合わせ場所に着くと既にアルミンが待っていて、私の姿を見つけるとふんわり微笑んで片手を上げた。

「ごめんねお待たせ!待った?」
「ううん、今来た所だよ」
「わぁ…!」
「?どうしたの?」
「なんか今のやりとり恋人同士っぽくない?」
「……僕の勘違いじゃなければ僕たちって恋人同士じゃなかったっけ…」
「冗談だよー!」

何だか無駄にテンションが上がってしまってにこにこしていたら、アルミンも楽しそうに笑ってくれた。

「今日は付き合ってくれてありがとう。なるべく早く終わらせるから、ナマエが見たいところも言ってね」
「もー水くさいなー!デートなんだから遠慮しないで!」

そう宣言してからアルミンの手を取ってきゅっと握ると、ちょっぴり顔を赤くしてから同じように握り返してくれた。

待ち合わせした場所から程近い大型ショッピングモールにやって来た私たちは、まずキッチン用品が取り揃えられているお店に足を運んだ。
アルミンは料理が結構好きな方らしく、一人暮らしを始めたら頑張って自炊する、と意気込んでいた。
今後アルミンの家に遊びに行ったら手料理がたくさん食べられるのかなぁなんて考えたら思わず顔がにやけてしまう。
私の方はと言うと普段料理なんて全くしないから自信がないとかそんなレベルじゃない。でもここで私が美味しい料理を作ったらアルミンも惚れ直してくれるかもしれない。
動機が不純だけど今後ちょっとぐらい頑張ってみようと思う。
途中可愛いペアのマグカップを見つけたからこれ買おう、アルミンの家に置いとく!と言ったら僕の家に入り浸る気満々だねと苦笑していた。ダメ?と聞いたらいつでもおいでよと返ってきたから思わず頬が緩んでしまう。

それからタオルとか洗面用具とか洗剤とか、生活に必要な物を一通り買い揃えた後昼食を取った。
今日は日曜日だからどこも結構混んでいたけど、リーズナブルな洋食屋さんの前を通りがかったらタイミングが良かったのかすんなり入れたので、歩き回って少し疲れた足を休めつつお腹を満たした。
一息ついて何気なく周りを見てみると、周りのお客さんは家族連れやカップルが多くてふと疑問が浮かぶ。

「ねぇねぇアルミン」

食後の紅茶を飲みながら目の前のアルミンに尋ねてみる。

「なに?」
「私たちって傍から見たら恋人同士に見えるのかなぁ」

そう言うとアルミンはちょっとびっくりしたように目を丸くして、うーん、と唸ってから口を開いた。

「見えてるんじゃないのかなぁ。少なくとも兄弟には見えてないと思うけど。急にどうしたの?」
「うん、なんかね、アルミンとこうしてデートしてることが実はすごいことなんじゃないかなってふと思っちゃって」
「と言うと?」
「だって人間が出会う確率って単純に考えたら65億分の1ってことでしょ?アルミンと出会って今こうして一緒にいる私ってすごく幸せ者なんだなぁって思ったの」

素直に思ったことを口にしたら、ほんのり頬を染めたアルミンがあんまりそういうこと外で言わないで、ともごもご言った。お、これはかなり照れてるな。
自分でも何で急にそんなことを思ったのかはよく分からないけど、巡り合わせってやつに感謝しようと思った。

お店を出たらアルミンが僕の方はほとんど終わったから次はナマエの行きたいところに行こうと言ってくれて、ちょうど目に入った可愛い雑貨屋さんに入った。
特に欲しいものがあったわけじゃないけどお店の中を見て回っていたら、アクセサリーの所でブルーの石とゴールドの石がついた星のネックレスが目に入った。
動きの止まった私を不思議に思ったのか、アルミンが隣からひょっこり顔を覗かせる。

「気に入ったの?」
「うーん…」

星モチーフは可愛いし好きだけどちょっと子供っぽいかなぁ。大学生になったわけだし、少しでも大人っぽくならなきゃ、とっても可愛いけど…それに何よりお値段がちょっと厳しいかも…とちょっぴり名残惜しかったけれど視線を外した。

その隣には腕時計のコーナーがあって、大学生になったしこれからは腕時計の一つでも持つべきかななんて考えていると女の店員さんがにこやかに近付いて来た。

「そちらの時計、可愛いですよね」
「あ、はい、素敵なのいっぱいありますね」
「これとか人気があるんですよ〜」
「可愛いかも…」
「男性にはこちらのとか如何ですか?結構どんな服にも合うしお勧めしてるんですよ」
「そうなんですか」

あれ?なんか。

「あとはこちらなんかも。お兄さん、綺麗なお顔してますね。かっこいい方は何着けても似合っちゃうんですけどね〜」
「えっいや、あの、そんなことないです…」

…何照れてんだこら。
この店員さん、さっきからアルミンのことばっかり見てる。むしろ最初からアルミンのことしか見てない。
むくむくと黒い感情が沸いてきて、これ以上会話を聞いていたくなくて、ここにいたくなくて、気が付いたら衝動的に声を上げていた。

「あの、やっぱりいいです!ごめんなさい!」
「え、ナマエ!?」

アルミンの腕を引っつかんで、逃げるようにその場を去った。



店を出て広場を抜けて、噴水やベンチが並ぶちょっとした休憩スペースに辿り着いてやっと足を止めた。
走って来たから息が上がって二人してぜぇぜぇと肩が上下し呼吸が乱れているのを落ち着ける。

「ナマエ……急にどうしたの?」

はぁはぁと息を整えながら、何で私がこんな奇行に走ったのか全く分かっていないらしいアルミンが不思議そうに尋ねた。

「……あの店員さん、アルミンばっか見てた」
「え?」
「絶対アルミンに気があるんだ…」
「まさか」

アルミンは信じられない、といったような顔をしてたけどあれは絶対に一目惚れに近い感じの、そういうあれだ。あの店員さんの態度と女の勘がそう告げていた。
アルミンは中性的で童顔だし可愛いし、だけどふとした瞬間に大人っぽくてかっこよくなる上にとても優しいし、なかなかモテるのだ。
高校時代、それで私がどれだけやきもきしていたか。

「それで走って逃げてきたの?」
「…うん」
「…やきもち?」
「……うん」

素直にそうは言ったけどなんだか子供みたいで情けないし恥ずかしいしで顔を上げられない。

「……呆れた?」
「呆れてないよ」

そう言ったアルミンの声がやたらと優しかったからおずおずと顔を上げてみた。にこにこ笑ってる。

「…うそだ、顔が笑ってる」
「可愛いなぁって思ったんだよ」
「……うそ」
「嘘じゃないよ。ナマエはあんまりいい思いをしなかったかもしれないけど、今の僕…にやにやしちゃってダメだ。ごめん」

ふにゃりと笑ったその顔は照れながらも心底嬉しそうで、そんな顔を見てしまったらもう何でもいいか…と気が抜けてしまった。
変な言い方だけどそこまで喜んでくれたのなら嫉妬したかいがあったというものだ。
それじゃあ気を取り直して行こうか、とアルミンの方から手を繋いできて、再びいろんなお店を見て回った。



********************



夜になり、思う存分買い物を楽しんで夜ご飯も済ませ、楽しかったデートもそろそろ終わり。明日も授業があるし会えるけどやっぱり別れ際っていうのは寂しい。

「今日は付き合ってくれてありがとう。次来た時には僕の家ももう少し居心地が良くなってると思うから、またいつでも遊びにおいで」
「うん。こちらこそありがと。楽しかったよ」

じゃあまた明日、と手を振って帰ろうとした所でナマエ、と呼び止められた。

「ん?」
「あのさ…これ貰ってくれるかな」

ちょっと恥ずかしそうにアルミンが差し出してきたのは、可愛い包装紙にラッピングされた小さな包み。
びっくりしてアルミンの顔を見つめたら、大したものじゃないけど、と小さく言った。

「開けてもいい?」
「どうぞ」

袋を破らないように慎重に開けて中の物を取り出してみたら、手のひらにゴールドとブルーの石がついた小さな星が転がった。

「これ…!」
「さっきじっと見てたから。いらなかった?」
「いる!いります!」

そんなに慌てなくても取らないよ、とアルミンは笑った。
まさかさっきお店で見てたあのネックレスが出て来るとは思わなくて。
子供っぽいかもなんて思ったけど、本当はすごく欲しかったし実際に手に取ってみるときらきらしててとっても可愛かった。

「アルミン、ありがとう」
「どういたしまして。今日のお礼も兼ねて、それから…僕たちが出会えた65億分の1の確率に感謝したくなったんだ」

なんてちょっとくさかったかな、と照れ笑いしてたけどそんな殺し文句を吐かれてしまったら感極まってしまってなんだか泣きそう。ぐす、と鼻を啜ってもう一度お礼を言った。

「貸して。つけてあげる」

私の手からネックレスを受け取って背中に回ったアルミンは、それをそっと首に通してくれた。なんだかこのシチュエーションにどきどきする。

「はい、出来たよ」
「ありがとう」

嬉しくてにやにやしたくなる気持ちを抑えて、自分の首元の少し冷たい感触に触れながらぽつりと呟く。

「…あのね、このネックレス、ちょっとだけアルミンみたいだなって思ったの」
「え?」
「ゴールドはアルミンの髪の色で、ブルーはアルミンの目の色。私から見てアルミンはいつもきらきらしてるから。なんだか運命の星みたいだね」

私もくさかったかな、とちょっと恥ずかしくなって茶化すようにそう言うと、アルミンは目を見開いてから頬を真っ赤に染め上げた。

「…そういうこと外で言わないでってば…」
「あはは、照れてる。家でならいい?」
「いいよ」

ほっぺたを染めながらふわりと笑った顔はとってもかっこよくて、今すぐ飛び付きたい衝動をぐっと堪えた。
バカップルっぷりを発揮していてふと思う。
あれ?ちょっと待って。
このネックレスがここにあるということは、アルミンはまたあのお店に行ったんだろうか。

「さっきのお店、いつの間にまた行ったの?」
「ナマエがお手洗いに行ってる間にね」
「そっか……。あの店員さん、いた?」

別に店員さんが悪いわけじゃない。
ただ私がどうしても気になってしまうってだけで。

「うん。そう言えばさっき一緒にいた方は彼女ですか?って聞かれたよ」

ほらやっぱり!
普通客に対してそんなこと聞かないもの。
何とも言えずぐぬぬ、と歯を軋ませる。

「…それで?」
「そうです、って言ったよ」
「ふ、ふぅん」

アルミンが私のことを彼女だって、他の人に言った。
ただそれだけなのに嫉妬の気持ちはどこへやら、にやけそうになる私はものすごく単純だと自分でも思う。
赤い顔を隠そうとしたらアルミンがそれより早く私の顔を覗き込んできた。

「機嫌は治りましたか、お姫さま?」
「!な、なおり…ました…」

恥ずかしくってしどろもどろになりながらそう答えると、アルミンは楽しそうに顔を綻ばせた。



starlight
追い打ちをかけるように私の胸元の星にそっと触れて似合ってるよ、なんて言ったのは、きらきら、星の王子さま。






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