今オレはかなり面倒な状況に巻き込まれている。
誰かこの状況を打開出来る奴がいるならすぐにでも出て来て欲しい。
というかむしろ助けてくれ。

訓練の後、同期であるナマエに声をかけられ人気のない宿舎の裏に呼び出された。
これはアレか?もしかして想いを伝えられる系のやつか?
まさか自分がこんなありがちでベタな体験をするとは想像もしていなかったから、少しばかり期待してしまう。
いやいや、オレにはミカサが…と邪な考えを振り切ってそいつと向き合うと、突然ナマエは「ジャンはミカサが好きって聞いたんだけど本当なの…!?」と血気迫る勢いで縋り付いてきた。怖ぇよ。

「いきなりなんだよ!つーか放せ!」
「ジャンがミカサの事を好きでも…でも…私はジャンのことが好きなのおおぉぉぉうわああああん」

ナマエはいきなりガキみてぇに泣き出して叫ぶもんだからその迫力に圧倒されて一歩たじろいだ。これは引かざるをえない。

「お前は一体なんなんだ…!これはもしかして罰ゲームかなんかか?」
「人がせっかく告白してるのに罰ゲームはひどいよ…」

涙で顔をグチャグチャにして訴えてきた。いいから顔拭けよ。
とりあえず落ち着くように促すと、それもそうだと納得したのかオレから体を放しズボンのポケットからハンカチを取り出して涙を拭っていた。

「さっきね、マルコとライナーが話してたの。ジャンはミカサが好きなんだって」

あいつらは人のいない所で何話してんだ…。
怒りと呆れが混ざって行き場のない感情がふつふつ沸いてくる。

「今まではただ見てるだけで満足だったけど、好きな人に好きな人がいるっていうのは耐えられなくて…うっ、ぐす」

雰囲気的にはさっきまで期待していた展開そのものなんだが、このやるせなさはなんだ。
それに女子から告白されるというのはもっとこう、ドキドキしたり甘酸っぱい気持ちになったりするもんなんじゃないのか?
声をかけられた時やけに切羽詰まった顔をしているなとは思ったが。
相手がこんな変人じゃ雰囲気もクソもない。
そもそもあまり話した事はないがこいつはいつも大人しくて他の奴らの影に隠れているような印象だった、が、今の様子を見るにその印象も塗り替えなければいけないらしい。

「お前はもっと大人しい奴だと思ってたんだが結構面倒臭い奴だったんだな…」
「うん正直今ジャンと話せてドキドキしてるよ」

何と言ったらいいかわからずぐっと言葉に詰まったオレをナマエはじっと見つめて真剣な声色で言う。

「私はミカサみたいに美人じゃないし成績も良くないけど頑張るから…だから私にしときなよ。だめ?」
「だめとかそういうことじゃねぇだろ…」
「ジャンのこと好きになる人なんてこの先滅多に現れないと思うよ?」
「うるっせぇな!告白しに来たのか馬鹿にしに来たのかどっちなんだお前は!」

思わず声を上げると告白しにきましたなんて真面目な顔をして言うもんだから拍子抜けした。
こっちのペースが崩されるというか振り回されている気がしてだんだん苛々してくる。
正直こんな失礼な奴でも好いてくれているのに悪い気はしないが、だからと言ってそれに応える事は出来ない。

「あー…悪いがオレは知っての通りミ「ダメー!言わないで!」
「……」
「自分で聞きにきといてアレだけど本人の口から聞くのはやっぱりつらい、かも」
「……オレはどうすりゃいいんだよ」
「きっぱり断ってくれた方があきらめもつくけど断られるのは嫌だ」
「お前ワガママすぎるぞ」

はぁと深く溜め息を吐いたら首を傾げて大丈夫?なんて聞いてきた。大丈夫じゃない、疲れた、誰のせいだ。

「そもそも何でオレなんだ」
「自分に正直すぎて裏表がなくて自惚れてて偉そうで自分が正しいと思ってて傲慢だけど実は優しいところ」
「褒められてる気がしないのは気のせいか?」
「あと人を見下した時の表情がそそる」
「今まさにオレはお前を見下すというか軽蔑している」
「そのゲス顔も今ではかっこいいと思える…」
「お前本当はオレの事嫌いだろ?」
「大好きだよお」

へらりと笑ったその表情に少し心が揺らいだのは秘密だ。
しかし次の台詞でそれも勘違いだったと思い直す事になる。

「だからジャンも私の事を好きになってください。好きになって。なれ」
「ちくしょうはいとでも言うと思うか?」
「今は無理でもいつかきっと」
「…いっそ清々しいほど前向きだな」
「えへへ…ありがとう」

褒めてねえ。
こいつとの会話はいまいち噛み合ってねぇし疲れるしで付き合いきれねぇしもうさっさと宿舎に帰って寝ちまいたい。
だんだん馬鹿らしくなってきてナマエに背を向けた。

「とにかくもう極力話し掛けてくんな。疲れる」
「えぇーそれはひどいよー」
「今までだってあんま話してなかっただろ」
「でももう告白しちゃったしあの頃には戻れないんだよ…お互い」

悲劇を演じる役者のように妙に憂いを帯びた表情で訴えるナマエを見て脱力した。
勘弁してくれ…。



恋は盲目
「好きになってもらえるように頑張るね」
「頑張るな頼むから」






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