今日は久しぶりの訓練がない休日で、訓練兵たちはいつもなら街へ出掛けたり部屋でゆっくりしたりと思い思いに過ごすのだけれど、外は生憎と雨が降っていてせっかくの休日が台無しにされた気分だった。
私も今日は久々に街に行って気分転換でもしようかなと思っていたのにこの土砂降りではその気分転換も出来そうにない。
むしろ外に出るだけで気が滅入ってしまいそうだ。

する事もなく暇な私は、窓の外で降り続ける雨を見つめたり隣りで静かに本を読んでいるアルミンを観察したりとせっかくの休日をぼーっとしながら過ごす。
真面目な顔をして本に目を落とすアルミンの横顔を眺めながら睫毛長いなあなんてぼんやり思う。
私より睫毛長い。いいなぁ。
女子として何か負けた気がするけどアルミンだからいい。
ふぅと息を吐いてもう一度窓の外に目をやる。
ざあざあと激しく降る雨はしばらく止みそうにない。

「雨いっぱい降ってるよアルミン」
「そうだね」
「暇だなぁ」
「ナマエも本とか読んだらどうかな?」
「眠くなっちゃうもん」

なら寝ればいいのに、とは言わずナマエらしいね、と苦笑するだけのアルミンはとても優しい。
邪魔はしたくないけれど、だけどやっぱり構ってほしくてつい話し掛けてしまう。

「ねぇねぇアルミン」
「ん?」
「アールミン」
「どうかした?」
「アルミン」
「もう。ナマエ?」
「呼んだだけ!」

なにそれ、と笑ったアルミンの表情は柔らかくて底抜けに優しい。
端から見たらただ煩わしいだけだろうやりとりにも、アルミンはちょっと困った顔をするだけで怒らず付き合ってくれる。
そんなだからつい調子に乗ってしまって、いつか嫌われてしまうかもしれない。
そんな事になったらすごくショックで落ち込んじゃうなぁなんて一人で勝手に想像して勝手に悲しくなってしまった。

「何でアルミンは怒らないの?」
「怒るって?」
「だって私うるさいでしょ?」

たとえばこれがもしエレンやジャンだったらうるせえなの一言で片付けられていたかもしれない。

「うるさくなんかないよ」
「本当に?」
「本当だよ」

このやりとりでさえうざったいだろうと思うのに、嫌な顔をせずいつもこんな面倒くさい奴に付き合ってくれるアルミンは年の割に大人びていて、そんなアルミンに私はいつも甘えているのだ。

「アルミンは優しいね」
「そうかな?」
「そうだよ。アルミンみたいに優しい人は滅多にいないと思うよ」
「そんな事はないと思うけど…」

親切だしおとなしいし、あんまり怒らないから、時々面倒な頼まれごとをされたり掃除当番を押し付けられているのを見た事もあった。
結局皆そんなアルミンに甘えている。

しばらくぶりの静寂が戻ってくる。
アルミンはまた本に視線を戻して、私は窓の外を見つめる。
いつになったらこの雨は止むのかな。

「本音を言うとさ」
「ん?」

視線を声の方に向けると、読書に戻ったはずのアルミンが顔を上げて私を見ていた。
その真っ直ぐな青い瞳と目が合って心臓がどくどくと鼓動するのがわかる。

「ナマエに名前を呼ばれるのが嬉しいんだ」

白い頬をちょっと染めて、眉を下げて笑うアルミンは今まで見てきたどのアルミンよりも可愛くてかっこいい。
そしてこの台詞は反則だ。

「…そうなの?」
「うん。だから優しいとかじゃないんだ。自分のためだから」
「そっか」
「そうだよ」

気を使わせていたわけじゃなかった。
むしろ名前を呼ばれるのが嬉しいだなんて予想外の事実に更に調子に乗ってしまうかもしれない。
それなら私も本音を言ってしまおう。

「あのね。私もアルミンの名前を呼ぶの、とっても好きなんだ」

アルミンは少しびっくりした顔をしてから、ふにゃりと表情を崩してそっか、それならちょうどいいねと笑った。



優しい本音
雨の音が聞こえなくなるくらい君の名前を呼ぶよ






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