わたしが所属している班にいるナナバさんという人は、物腰が柔らかくてとっても優しくて実力もあってかっこよくて、とにかく完璧な人だ。
飄々としていて少し捕らえどころのない部分もあるけれど、そこも含めて魅力の一つだと思う。

頭は良くないし実力もあまりない、わりと出来損ないな後輩であるわたしを何かと気に掛けてくれて世話を焼いてくれるナナバさんのことがわたしは大好きで。
そんな優しいナナバさんに甘えて、こんな方法でしか気を引けない自分は愚かだと思う。



「ナナバさあん!」

この時間なら多分広間にいるはずだと踏んで、廊下と広間の境の扉を勢いよく開けると涼しい顔をしたナナバさんが迎えてくれた。

「やあナマエ」
「ナナバさん、どうしよう」
「どうしたの?また書類でもなくした?」
「うっ」
「また?」
「今日中に提出しなくちゃいけない大事な書類なんですけど見つからなくって…。ううどうしようナナバさん…またミケさんに怒られる…!」
「大事だってわかっててどうしてなくすんだろうねこの子は」

返す言葉が見つからずごめんなさい…と項垂れるとナナバさんは立ち上がってわたしの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「仕方ないね、一緒に探そうか。何の書類?」
「今期の調査兵団の予算案申請書です」
「それは重要だ」

ナナバさんは少し笑って私の方を見る。
その控えめな笑顔が大好きな私は、不意を食らって一瞬固まってしまった。かっこいい。
ナナバさんは気にした様子もなく広間を出て行こうと歩き始めたので、私もそれに続いて広間の出口に向かう。

「ナマエは普段はそうでもないのに、どうしてたまにこうやって間の抜けたことをしでかしてしまうんだろうね」
「ま、間の抜けた…。すみません、返す言葉もございません…」

ナナバさんは時々ちょっぴり毒舌だ。
そんな所もかっこいいと思ってしまうあたり、わたしはもう完全にこの人の深みにはまってしまっているのかもしれない。


広間の扉に手をかけようとした瞬間、勢いよくその扉が開いたものだからナナバさんは一瞬びっくりしたように後ずさった。

「おいナマエはいるか!?」

扉の向こうから現れたのはゲルガーさんで、私の姿を見つけるなりずかずかと歩み寄ってきて一枚の書類を私に突き付けた。

「お前は本当に間抜けっつーか注意力が足りないっつーかあと一歩が甘いよな」
「なっ」
「この書類の予算案の所、桁が一つ間違ってるってよ」
「……え」
「修正したらもう一回ミケ分隊長に提出しとけよ」

ゲルガーさんは言いたい事だけ言うと、わたしに一枚の書類を押しつけてまた扉の向こうへと消えてしまった。

……まずい。非常にまずい。
よりによってその書類は今まさにナナバさんに一緒に探してもらおうと思っていたもので、このタイミングで来たゲルガーさんを呪った。
ゲルガーさんはまったく悪くないけれど。

「この書類……」

いつの間にかナナバさんがわたしの背後からわたしが持っている書類を覗き込んでいた。
この状況にドキドキする余裕なんかなくて冷や汗が伝う。

「さっき探してるって言ってたやつ?」
「えっ…と……あ、あはは…わたしってば提出したの「提出したのを忘れてましたとは言わせないよ」
「うっ……」

君はおっちょこちょいだけどそこまでボケてないよね?
妙に圧力のある言い方でナナバさんが詰め寄るけれど、何も言えず俯いて黙り込む。

「君が時々大事な書類とか備品をなくすのって何か理由があるのかな?」

理由。
ナナバさんと話がしたいから。
ナナバさんに構ってほしいから。
ナナバさんの傍にいたいから。

だけどそんな事が言えるはずもなく、両手をぎゅっと握り締めて俯く事しかできないわたしにナナバさんは一つ溜め息を吐いて、さっきよりも優しい声で言った。

「ねえナマエ。そんな事をしなくても私はナマエの事を常に気に掛けているんだよ」
「……え?」
「私が気付いていないとでも思った?ナマエの事は全部お見通しだよ」

くすくす笑って爆弾発言をするナナバさんに面食らってわたしはぱくぱくと口を開いたり閉じたりする事しか出来ない。
どういうこと…?

「わたしが書類をなくしたふりをしてナナバさんに一緒に探してもらってたのは全部バレバレだったってことですか…?」
「ふふ。やっと白状したね」
「あっ」

自分で自分の醜態を曝してしまった。
自作自演の失態を演じていたのが最初からばれてたなんで、これ以上に恥ずかしい事はない。

「…気付いてたなら、なんで言わないんですか…」

逆ギレってわけじゃないけど、ナナバさんの意図が掴めなくて口を尖らせながら呟いた。
自分の馬鹿な行動がすべて悪いのは分かってるけど、それがまさか気付かれていたなんて顔から火が出るくらい恥ずかしい。

「なんでって、必死になって私に構ってもらおうとしてるナマエが可愛くて」

そんな事しなくたって喜んで構うのにね、なんて言いながら薄く微笑むナナバさんは今まで見たどのナナバさんよりもかっこよくて眩しかった。
さっきからわたしの心臓は目の前のこの人に掴まれて良いように弄ばれている気さえする。

「ねえナマエ。好きだよ。馬鹿な君がとてもね」

そしてまた、爆弾発言。



駆け引きは必要ない
だってこの人にはわたしの気持ちなんてバレバレなんだから。





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