※学パロ



11月4日。
今朝の教室の雰囲気はいつもとどこか違い、やたらそわそわと落ち着かない人が多いような気がする。
まぁその中に自分自身も含まれているわけだけど。と言うか一番そわそわしているのは私のような気もするけど。
逸る気持ちを抑えて、一週間前からみんなで作っていた折り紙で出来た輪飾りを天井に貼り付ける作業を続ける。エレンとミカサも一緒に手伝ってくれているので作業は思ったより早く終わりそうだ。

「よし…っと。こんなもんか」
「こっちも出来た。ナマエは?」
「うん、完成!」

倉庫から借りてきた脚立から降りて見上げると、カラフルな輪飾りが天井を色とりどりに彩っていていつもの教室なのになんだか違う場所にいるような新鮮な気分になった。

「お、すごいね」

いつの間にか隣りにいたマルコも同じように天井を見上げて目をきらきらさせていたので、ちょっぴり得意気になってしまう。

「でしょ。アルミンびっくりするかなぁ」
「してくれるといいな」

「アルミンの誕生日にサプライズ企画をプレゼントしよう」と提案したのが今から1週間前。
アルミンの誕生日は本当は昨日の11月3日だったんだけど、11月3日は文化の日で学校が休みなので仕方なく次の日の今日実行することになり、こうしていつもより早く登校してサプライズの準備をしているというわけで。
ちなみに昨日はおめでとうメールを送っておいた。本当は直接言いたかったけどまぁ仕方ない。

「みんな準備出来た?」

マルコがそう言いながら教室を見渡すと、脚立の上で作業していたエレンとミカサが降りてきた。それからクラッカーを机に広げていたジャンとコニーもこちらにやってくる。

「よし、じゃあ最終確認をしよう。飾り付けは完了。ジャンとコニー、クラッカーの準備は?」
「出来てるぜ」
「音もテープも2倍ってやつにしてみた!派手に行くぜ!」
「テープはともかく音も2倍となると隣りのクラスにも連絡しておいた方がいいな…。まぁそれは後ででいいか。サシャとクリスタとユミルもそろそろケーキを持って来てくれると思う。あとは…」

さすがこのクラスの学級委員長、マルコのてきぱきとした進行に感心していると教室のドアが開いて隣りのクラスの三人が顔を覗かせた。

「おぉ、飾り付けすごいな。どうだ、上手く行きそうか?」
「あぁライナー、ちょうど良かった。クラッカーなんだけど音がちょっと…いやかなりうるさいかもしれないから、あらかじめクラスの人達に伝えておいてくれないかな」
「それならもう伝えてある。これから隣りのクラスがちょっとばかり賑やかになるかもしれないが大目に見てやってくれってな」
「さすがだね。ベルトルトとアニも良ければ一緒に参加してくれないか?」
「あぁ、もちろん」
「そのために来たんだよ」

人数が増えだんだん賑やかになってきて思わず頬が緩んでしまう。アルミンをびっくりさせて、出来たら喜んでもらって、そしてお祝いするためにこれだけの人が協力しようとしてくれている。自分のことのように嬉しくなってしまう。

「へへ。楽しみだね」
「アルミン、喜んでくれるといいな」

エレンと顔を見合わせて笑った。大事な友達の喜ぶ顔を想像して胸が高まるのを感じる。
と、再びドアの向こうから騒がしい声が聞こえて視線を向けると、家庭科室を借りてケーキ作りをしていたクリスタ達が大きなケーキを抱えて教室に入って来るところだった。

「お待たせ!ケーキ出来たよ」
「ちょっとだけ!ちょっとだけでいいですから味見させて下さい!苺一個だけでもいいですから!」
「お前散々つまみ食いしてただろうが!いい加減にしろ!」

苦笑いをしながらケーキを守るように立つクリスタと、飢えた獣のように出来たばかりのケーキを狙うサシャ、それを阻止しようとサシャの首根っこを掴むユミルと、いつもの光景に思わず吹き出してしまう。
それにしてもケーキはふわふわの真っ白な生クリームと瑞々しい苺たっぷりでとても美味しそうだ。

「すごいね!美味しそう」
「実はほとんどユミルが作ってくれたんだけどね。ユミルはこう見えて料理が得意なんだよ」
「おいクリスタ、黙っとけって言ったろ」
「ふふ、別にいいじゃない。これはアルミンへのプレゼントだけど、後でみんなで一緒に食べよう」

ユミルの意外な一面にびっくりしつつ、この美味しそうなケーキを食べられるのかと思うとサシャじゃないけどわくわくしてしまう。サシャはユミルに怒られてつまみ食いは不可能だと諦めたのか、しょんぼりしながら名残惜しそうにケーキを見つめていた。

「そろそろアルミンが登校してくる頃だね」

壁にかかっている時計に目をやりながら呟く。時刻は8時15分を差していた。

「よし、じゃあクラッカー係はそろそろ配置について。ナマエはアルミンが来たら合図して」
「わかった!」
「なぁ、ドアの間に黒板消し挟んどくか?」
「それは違う意味のサプライズだからやめとこうかコニー」

コニーの天然にツッコミを入れつつ、ドアから顔を半分出して廊下の様子を伺う。なんだか緊張してきた。アルミンびっくりするかな。それともアルミンのことだからここ数日そわそわしっぱなしだった私やエレンの様子からなんとなく気付かれちゃってるかな。どっちにしても大好きなアルミンの誕生日をお祝いしたいという気持ちは変わらない。
気合いを入れたところで階段の踊り場から出て来た、見慣れた金色の頭が目に入った。朝特有の喧騒に包まれた廊下を進み、こちらの教室へ近付いて来る。

「アルミン来たよ!」

みんなにそう告げながらドアを閉め、ドアの近くでクラッカーを構えているジャンとコニーの間をすり抜けて、教室の真ん中辺りで待機しているみんなの側に滑り込む。
ふと隣りのマルコと目が合って、「上手くいくといいね」と笑い合う。
アルミンが到着するまで、あと少し。逸る気持ちを抑えてドアを見つめる。びっくりしてくれるかなぁ。

ガラッ。

ドアが開いて主役が顔を覗かせたのと同時、何かが弾けるような大きな音と色とりどりのテープや紙吹雪が教室を舞った。
すぅ、と息を吸い込み合図を送る。

「せーの」
「アルミン誕生日おめでとう!!」

教室に入るなり音も飾りも派手なクラッカーを向けられ、更にクラスメイト達からのおめでとうコールでさすがのアルミンも大きな目をぱちくりして数秒固まっていた。その様子からサプライズは成功したらしい、とホッと安心する。掴みはばっちりた。あとは喜んでくれればいいんだけれど。

「えっと…これって…?」
「昨日はアルミンの誕生日だろ?」
「そうだよ!本当は昨日お祝いしたかったんだけど昨日は学校が休みだったから…ごめんね」
「ううん、そんな!うわぁ、教室も飾り付けされてる」
「みんなでやったんだ。綺麗だろ?」
「お前折り紙の切り方が汚いってミカサに怒られてたじゃねぇか」

エレンが得意気に言うと、すかさずジャンの突っ込みが入った。いつものようにエレンが文句を言おうしたところで「今は喧嘩はなしだよ」とマルコからのストップが掛かり二人はぐっと言葉を詰まらせる。

「とにかく、いつも僕たちアルミンにお世話になってるからさ。誕生日のお祝いと、日頃の感謝の気持ちを込めてサプライズをやろうって話になって。あ、企画したのはナマエだよ」
「わ、私は何もしてないよ!ほとんどマルコがまとめてくれたし!」
「アルミンに喜んでもらいたいって一番頑張ってたのはナマエ」
「ちょっとミカサそう言うのは恥ずかしいから秘密にしといて!」

もー!と頬を膨らませるとミカサはよく分かっていないらしく不思議そうな顔をしていた。まぁ本気で怒ってるわけじゃないけどやっぱり恥ずかしい。
話題を変えようと視線を泳がせると、いつの間にかケーキを持っていたサシャがアルミンの方に近付いていた。

「ケーキもあるんですよ!」
「わぁ、すごい。美味しそうだね」
「ほとんどユミルが作ったんです」
「だから言うなって…はぁ…もう何でもいいわ」
「ね、早速食べましょう!アルミンの許可がないと食べられないんです」
「えっと…」
「今は駄目だよサシャ。お昼休みにね」
「えぇ!?そんなの聞いてません!」

クリスタが苦笑しながら嗜めると、サシャはがっくりと項垂れて意気消沈してしまった。
その様子を見て、どこから取り出していつの間に用意したのかパーティーグッズの三角帽子を被ったコニーがやれやれと呆れたように溜め息を吐いた。

「お前アルミン祝う気あんのかぁ?」
「もちろんありますよ!アルミンには宿題とかでいつもお世話になってますし…。コニーもそうですよね」
「あぁまぁそうだな。アルミンいつもありがとな」

そう言いながらコニーは手に持っていたもう一つの三角帽子をアルミンの頭に乗せた。おぉ似合う。コニーグッジョブ。

「そんな、全然だよ。ライナー達もわざわざ隣りのクラスから来てくれたんだね」
「なに、アルミンに世話になってるのはサシャやコニーだけじゃないからな」
「えっと…おめでとう、アルミン」
「ありがとう」
「泣いてんの?」

馬鹿にするわけではなくいつものように冷静にアニが指摘すると、アルミンは目を潤ませながら恥ずかしそうに笑った。なにその顔可愛い。なんて口に出したら困らせるから言わないけど。

「上手く言えないけど本当に嬉しいんだ。みんなありがとう。僕は幸せ者だなって思うよ」

とびきりの笑顔でそう言ったアルミンを見ていたら私の方まで目頭が熱くなった。喜んでくれて良かった。みんなでアルミンのために頑張ったサプライズ企画は大成功だ。

「よーし!じゃあリヴァイ先生が来るまでに教室片付けないとな!」
「余韻も何もないな…」
「ふふ。僕も手伝うよ」

床に散らばっていたクラッカーのテープや紙吹雪を片付けた後、せっかくだし、と天井の輪飾りはそのままにしておいたら教室に入って来たリヴァイ先生はほんの一瞬目を丸くして驚いていたみたいだった。珍しいこともあるものだ。「おい…これはどういう状況だ」と低い声で言った先生にコニーが元気良く「アルミンの誕生日パーティーをしました!」と報告すると先生は「そうか」と一言呟いただけでそれ以上は何も言わず朝のホームルームを始めた。いつもならさっさと片付けろとでも言いそうなのに本当に珍しい。先生もアルミンの誕生日を、注意しないという形で祝ってくれたのだろうか。
とりあえず今日一日はいつも自分のことを後回しにしてしまいがちなアルミンにたくさん主役気分を味わってもらおう。



虹色サプライズ
大好きな君へありがとうとおめでとう!





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