※学パロ



放課後の静かな図書室で本を読んでいたら、誰かが近付いて来た気配がして顔を上げると横にナマエが立っていた。
いつものようにナマエのお気に入りの剣と魔法を題材にしたファンタジー小説を借りて来て僕の隣りに座って読むのかと思ったけれど、なかなか座ろうとしないので不思議に思う。

「ナマエ?どうしたの?」
「アルミン……」

控えめな声でそう呟いたナマエは心なしかそわそわしていてどうしたのかなと思い顔をじっと見つめると目を逸らされてしまった。
具合でも悪いのかと思って聞いてみたけど首をふるふる振ったのでどうやら違うらしい。
何か言いたいことがあるなら待とう。
そうは思ったけれど僕の名前を一度呼んだきり一向に言葉を発しようとしないので、とりあえず僕から話しかけてみる。

「うーんと…ひとまず座ったら?」

そう言いながら隣りの椅子を引いたら、こく、と一つ頷いて素直に椅子に座ったナマエを見てほっと安心する。
ナマエは個性的なクラスの面々の中ではおとなしくて内向的で、なんとなく放っておけないというか、みんなから可愛がられる妹のような存在だった。
放課後よく図書室にいる僕のところにやって来ては横でおとなしく本を読んでいることも多くて、懐いてくれているのだろうかとちょっと嬉しく感じている自分がいる。

「あ、そう言えばチョコありがとう。女子たちで作ったんだよね。ミカサから皆で作った、って貰ったよ」

今日はバレンタインデーで、ジャンやライナーが朝から妙にそわそわと落ち着かない様子だったのがなんだか可笑しかった。
昨日の放課後にミカサ、クリスタ、ユミル、アニ、サシャ、ナマエの六人で家庭科室を借りてチョコ作りをしたらしい。
普段あまりこういうことをしないミカサが楽しそうにその時の様子を話しながら、僕とエレンに綺麗にラッピングされたお菓子を渡してくれた。
例え義理チョコでもクリスタからチョコを貰ったライナーは顔にはあまり出していなかったけど嬉しそうだったし、コニーも飛び跳ねながらはしゃいでいて微笑ましかった。
ユミルの「ホワイトデーは三倍返しだからな」という一言にはみんな凍りついていたけれど。

「昨日は楽しかった?」
「うん」
「ミカサも楽しかったって言ってたよ」
「うん。でも、サシャがつまみ食いしちゃって、アニが怒って大変だった」
「あはは。簡単に想像出来ちゃうよ」

その光景が目に浮かんで来るようで、相変わらずだなぁと微笑ましくなる。
その時の様子は微笑ましいなんて可愛いものじゃなくて、実際はもしかしたらアニの蹴りやサシャの叫び声やそれを止めるクリスタの悲鳴が飛び交うような修羅場だったのかなとも思うけど。

「今日は本読まないの?」
「うん」

いつもなら何も言わずとも黙々と本を読み出すナマエが一向に動こうとしないで座ったままじっとしているので、首を傾げる。
横顔を見つめているとナマエは小さな声で僕に尋ねて来た。

「アルミンは甘いの、好き?」
「甘いの?うん。好きだよ」

そう言うとナマエは少しほっぺたを赤くして俯いた。
可愛いなぁ。
自然にそう感じて頬が緩む。

「あのね」
「うん?」
「あの…」

下を向いたまま少しの間黙っていたナマエは、意を決したように顔をちょっと上げておずおずと上目遣いで僕を見た。
やっと目が合ったこともなんだか嬉しくて、思わずどきりと心臓が鳴る。

「チョコ、アルミンにあげる」

抱えていた鞄の中から小さな包みを取り出したナマエは、ずい、とそれを僕に渡した。

「え?これ……」
「…みんなで作ったのとは違うやつ」

可愛くラッピングされたその包みをよく見てみるとメッセージカードが付いていて、そこにはナマエの丸っこい字で「アルミンへ」と書かれていた。

「アルミンだけにあげる」

落ち着かない様子でもじもじしながらそう言ったナマエの顔は真っ赤になっていた。つられて僕の方まで顔が熱くなってしまう。
これはどういう意味なんだろう。そのまんま、そういう、ことなんだろうか。
聞こうとしたらナマエは勢い良く椅子から立ち上がった。

「あ、え、ナマエ!」

僕が何か言うよりも前に、バタバタと走って図書室から出て行ってしまったナマエの背中を見送ることしか出来なかった。
情けなく胸の辺りまで上がった片手を下げてもう一度包みに視線をやる。
ナマエが僕だけにくれたチョコレート。
二つ折りのメッセージカードを開いて、そこに書かれていた文字を見て僕は顔を真っ赤にしてずるずると机に突っ伏すのだった。



君を意識し始めた日
その日は本よりも「大好きです」と丸い字で書かれたメッセージカードを眺めている時間の方が多かった





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