※2014年2月10日現在まだ単行本に載っていない53話、54話(13巻収録分)ネタバレ注意








あいつ絶対殺す。
何がなんでも殺す。
殺してやる。

エレンの代わりであるジャンと、ヒストリアの代わりであるアルミンが囚われている場所に突入して最初に見たものは、ヒストリアの姿に変装したアルミンが気持ち悪い男に身体をまさぐられている場面だった。

先に状況を偵察していたミカサが苦い顔をしてリヴァイ兵長に何か報告しているのを見て、何が起きているのか尋ねたら貴女は見ない方がいいと返された。
そんなことを言われたら余計気になってしまったけれど、勝手な行動を取ることも出来ないからどうすることも出来ない。
突入の合図をひたすら待った。

それから少しして二人が捕まっている倉庫に踏み込んで、目に飛び込んで来た光景。
何なのあれ。何をしてるの?
一瞬動きが止まってしまったけれど、状況を理解したら身体が衝動的に、勝手に動いていた。
地面を蹴って走り、未だ状況がわかっていないのか驚いているその汚い間抜け面を睨み付けながら思いっきり脇腹辺りに足の裏を押し付ける。べしゃ、と体が地面に転がった。

「何してるの?」

構わず追い打ちをかけるように近付いてぐ、と襟首を持ち上げた。
誰かが私の名前を叫んだような気がするけれどそんなことを考えてる余裕なんてない。
ただ目の前のこの気持ち悪くて下品な変態を殺してやろうと思った。今すぐに。
だけど思いっきり振りかぶった拳は男にぶつかることはなく、私の腕はいつの間にか後ろに立っていた兵長によって掴まれ阻止された。

「…気持ちはわかるが落ち着け。痛めつけるんじゃねぇ、拘束するだけだ」
「!っ……」

ぐ、と歯を食いしばって堪えのろのろと立ち上がると、涙目になって私を見ているアルミンと目が合った。



アルミンとジャンの拘束はすぐに自分で解けるように縛り直し、各々配置について物陰に身を潜め新しい見張りが倉庫内に入って来るのを待つ。
待っている間も脳裏にちらつくのはさっきの光景で、未だに腹の底から沸いてくるような憤りは収まらない。
頭に血が上るっていうのを久しぶりに実感した。ここまで激しい怒りは生まれてから今まで感じたことがなかったかもしれない。
それからしばらくして三人の男が入って来た。
息を潜めてタイミングを伺う。ジャンとアルミンの側までのこのこと歩いて来た男たち。脇から飛び出したミカサが顔面を蹴り上げタックルし、リヴァイ兵長が豪快に背負い投げをして、ジャンとアルミンはすぐに縄を解き拘束するのに加勢した。
サシャの弓矢が拳銃を貫きコニーは新手が来ていないかどうか確認し見張りをする。
見事なまでの素早い連携行動で、この場に集まっていたリーブス商会の全員を拘束した。

兵長と一人の男が会話をしている最中に、兵長が何かに気付いたように捕まえていた一人に目を向ける。さっきアルミンにセクハラしていた奴だ。口を縛っていた布が取れかかっていたらしく、叫ばれでもしたら面倒だと感じたのか近くにいたアルミンに猿ぐつわを締め直せと指示する。
素直に従ったアルミンは、男の首に手を回して一度布を緩めた。

「聞いたよ…」
「は?」
「君…本当は…男の子なんだってな」

顔を紅潮させて涎を垂らしながらハァハァと荒く息をする男は更に続ける。

「君のせいで…俺は…俺は普通だったのに…君のせいで今大変なんだから」

こいつは何を言ってるの?

「なんとかしてくれよ」
「アルミン…俺がやるから」

見兼ねたジャンがもう一度猿ぐつわをする役を買って出た。
アルミンはぽかんと口を開けてその男を見ている。
自分の中で何かがぷつんと切れたような気がした。

「ねぇジャン」

ジャンの後ろから近付いて、未だだらしなく涎を垂らしてアルミンを見つめながら興奮している男を見下ろす。

「こいつやっぱり殺してもいいよね?」
「おい、ナマエ…」
「どいて」
「落ち着け」
「殺す」
「落ち着けって!」

今にも殴りかかろうとする私をジャンが必死に止めるけど生憎収まりそうにない。気持ち悪い。虫唾が走る。

「何やってる。早くしろ」

兵長が急かし、ジャンが私を押し退けてそいつの口に布を締め直すのをぎ、と睨み付けながら見下ろした。



********************



囮作戦は成功し、今頃はハンジさんとリヴァイ兵長が捕らえた憲兵に尋問している頃だ。
新リヴァイ班の面々には一旦待機命令が出た。
囮だった二人を無事に助け出せたのはいいけれど、行き場のない怒りはまだふつふつと私の中で燻っていた。
誰も口を開かない重苦しい雰囲気の中、サシャがうずうずしながらアルミンに話し掛ける。

「それにしてもアルミン…おじさんにセクハラされて、ふふっ、その上あっちの世界に目覚めさせちゃったなんて…大変でしたね…!ぶっくく」
「災難だったなアルミン…ぶふっ」

笑いを堪えながらアルミンを見ているサシャとコニーを睨みつけると怖い顔して睨まないでくださいよ〜なんてサシャが呑気に言った。

「ほら…触られただけなんだからそんな落ち込まなくても」
「そうだぜ。まぁ確かにあいつ気持ち悪かったけどよ」
「…それが問題なの」

ジャンが溜め息をついてから、アルミンの肩に手を置いて心底憐れむような、同情するような表情をしながら話し掛ける。

「お前らはあの光景を見てないからそんな風に笑えるんだ…。アルミン、こいつらの言うことは気にすんな」

アルミンは涙目になって自分の二の腕辺りを抑えて小さく震えていた。
あんな理不尽なトラウマを植え付けられてただ可哀想、と気の毒に思う気持ちと、囮作戦に対しての憤りやあの変態野郎に対しての怒りで自分の中がぐちゃぐちゃで落ち着かない。

「…あいつ殺す次会ったら絶対殺す」
「お前はそろそろ本当に人殺しそうなその顔をやめろ」

ジャンに目を向けるとちょっと引いたような顔をしていた。
今の私はジャン並に悪人面…というか更に悪どい顔をしてるのかもしれない。
もうなんだかこの行き場のない苛々した感情をどうすることも出来なくて、ついジャンに当たってしまう。

「なに?ジャンは目の前でアルミンが気持ち悪い男に撫でくり回されてるの見てどんな気持ちだった?」
「お前な…オレだって居た堪れなくて仕方なかったんだよ!何が悲しくて目の前で同期がキモいおっさんにセクハラされてるところを見せられなきゃならねぇんだ!」
「助けろ」
「無茶言うな」

そりゃもちろん助ける真似なんかしたら偽物だっていうのがバレるかもしれないし、バレてしまったら全ておじゃんになって最悪アルミンもジャンも殺されてたかもしれない。
それはわかってる。わかってるけど。

「も、もうやめてよ二人とも…」

アルミンが居心地悪そうに言うから、二人して押し黙った。
もうこの話はやめるべきなんだ。
アルミンだって話題に出されるのは辛いはずだ。
サシャの言う通り、触られただけだからまだマシなんだ。私の中ではそれだけでも大問題だけどそう割り切るしかない。それ以上のことがあったら問答無用で殺してたけど。下を向いてぎりぎりと歯を食いしばった。

「お前ら何騒いでんだ。アルミン、顔色悪いな。大丈夫か?」
「う、うん…」

それまで自分の首にかかっている鍵を見つめながらそれをいじっていたエレンが、呆れたような顔をして私たちの方を見た。

「エレンも何か言ってやってよ。サシャとコニーなんて心配しないで面白がってるんだから」
「あ、あぁ…」

エレンがちらりとヒストリアを見た。
なんだろ、何かあったのかな。
とにかくリーブス商会と調査兵団は手を組んだわけだし、今後もしかしたらまたあいつと会うことがあるかも分からない。
その時は絶対に容赦してなんかやらない、と心に誓った。



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