※学パロ



年の瀬が近付いて寒さも増してきた12月。
今日は12月の一大イベントであるクリスマスイブだというのに、私はと言うと人通りの多くなって来た夕方の駅前でミニスカサンタの服を着てクリスマスケーキを売っている。
普段は駅から10分程のこじんまりとしたケーキ屋でバイトをしているのだけど、今日はケーキ屋が一年で一番忙しい日とあってここで売らなきゃいつ売るんだと言わんばかりに張り切っている店長の命でこうして駅前まで出向いて出張販売をしている。
手を繋いだり腕を組んだりしながら仲睦まじく歩くカップルや、楽しそうにはしゃぎながら通り過ぎる家族連れをぼんやり見つめながら時々来るお客さんを相手に淡々と仕事をこなす。
駅前での販売は一時間の交代制で、私の当番はあと残り30分程度ある。正直さっさと終わらせたい。ものすごく寒い。
足をパタパタさせたり太ももを擦り合わせて気を紛らわせたりはしているものの寒いものは寒い。
口元に持ってきた手にはぁ、と深く息を吐いて少しでも暖を取ろうとしていると、前方から見知った二人組が近付いて来るのが目に入った。

「よ」
「寒い中お疲れ様」
「ジャンとアルミンだ。何してるの二人とも」
「その辺ぶらぶらしてた」

二人とも制服だから学校帰りにほっつき歩いていたらしい。
両手をズボンのポケットに突っ込んだジャンと寒さのせいか鼻の頭を少し赤くさせたアルミンが、少しびっくりしたように私を見た。

「何だお前それコスプレか?」

馬鹿にしたような表情で笑うジャンをキッと睨み付ける。別に着たくて着てるわけじゃない。

「店長がこれ来て売らないと給料下げるとか脅すんだもん」
「馬子にも衣装ってやつだな」
「あん?」
「まぁまぁ。ナマエ、よく似合ってるよ」
「ありがとー。でも私が着るよりアルミンが着た方が似合うと思うよ」
「え」
「これクリスマスが終わったら貰えるらしいからアルミンにあげるね」
「着ろよアルミン」
「着ないってば……」

ニヤニヤと意地悪な表情で笑うジャンと呆れているアルミンを交互に見て、そういえばこの二人は何か用事があって来たのかなと疑問に思う。

「それで何しに来たの?ケーキ買って」
「買わねぇよ。イブにバイトしてる寂しい奴を冷やかしに来たんだよ」
「この野郎今働いてる人全員に謝れ」

悪態はついたけどまぁ確かにジャンの言うことも一理ある。
何が悲しくてこんな寒い中、私はミニスカサンタの格好をしてケーキを売ってるんだろう。しかも今日はクリスマスイブ。どうせなら彼氏と一緒に過ごしたかった。彼氏いないけど。

「それにしてもイブにアルミンとデートなんて良いご身分じゃないのジャン」
「デートじゃねぇよ。お前を待ってやってたんだろうがこのアホ」
「ナマエ今日はバイト7時までって言ってたよね?」
「うん」
「あと30分だし待ってるから、良かったらこの後何か暖かいものでも食べに行こうよ」
「行くー!」

もしかしてそのためにここまで来てくれたのかと嬉しくて胸がじんわり暖かくなる。
彼氏はいないけどクリスマスイブに仲良しな友人と過ごせるのは素直に嬉しい。
お客さん相手にする以上の最大級の笑顔で返事をした。

「いきなりテンション上がったな」
「もちろんジャンの奢りだよね」
「ふざけんな」
「何食べに行こっかアルミン」
「鍋とかいいんじゃない?」
「人の話を聞け」

相変わらず寒いのは変わらないけど楽しみが出来たから、あと30分のお仕事も頑張れそうだ。

「そこのカフェにでも入ってるから終わったら連絡してよ」
「わかった」
「オレにたかるつもりなら着替えないでそのまま来いよ」
「何その交換条件。無理に決まってるでしょ!」
「じゃあ奢らねー」
「あん!?」
「無茶苦茶だなぁ…。それじゃ、また後で」

さっさと背を向けて歩き出したジャンに続いてアルミンも苦笑しつつ片手を振ってからその場を離れた。
私も同じようにひらひらと手を振る。

「あ、そうだ」

何かに気が付いたらしく小走りで引き返してきたアルミンは、自分の巻いていたチェック柄のマフラーを首から外すと手際良く私の首にぐるぐる巻き付けた。
されるがまま状態の私にアルミンは巻き終わるとよし、と満足気に頷く。

「気休め程度にしかならないと思うけど…風邪引かないようにね」

そう言って優しく微笑んでから、少し行った先で待っていたジャンの方に再び向かって行った。
その自然で紳士的な行為に思わずきゅんとときめいてしまったのは仕方がない。
あの笑顔であんなことをされようものなら誰だってときめいちゃうよ、うん。
マフラーはアルミンが今まで巻いていたせいもあってかとても暖かい。心も身体もぽかぽかして来たような気がする。
よし残りも頑張ろう、と気合いを入れた。



サンタさん、プレゼントはこの胸キュンですか

「お待たせ!」
「お疲れさま」
「あ、うん。あの、アルミンこれ、マフラーありがと」
「どういたしまして。ちょっとは暖かかった?」
「う、うん。とっても」
「……なに乙女モードになってんだバーカ」
「あ?」
「ジャン、なんだかさっきから機嫌が悪いんだよ…。お腹すいてるの?」
「ちげぇよ」
「女子に優しくすることも出来ない自分自身に苛ついてるんだよ、きっと」
「はぁあ!?」






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