何でこんなことになっているんだ。どうしてなんだ。
焦って混乱する頭で考えなくたって原因なんか最初からわかりきっている。
絶対に問題が起こるとわかっていたのにそれを止められなかった僕が悪いのか。
とにかくこの状況から一刻も早く逃げ出したい。
だけどナマエによってがっしりと掴まれた右腕のせいでそれは絶望的だった。



最近ミカサの元気がない。
何をしていてもぼんやりしているし話し掛けてもどこか上の空で。
何かを考え込んでいるように見えたけど、その原因は間違いなくエレンだ。
エレンが調査兵団に身元を預けられてからずっと、面会も許可されていなくて落ち込むミカサを気の毒に思ったけれど生憎僕一人の力ではどうすることも出来ない。
勿論僕だってエレンに会いたいけれど、ただの一新兵がどうこう出来る問題でもなかった。
だけどナマエは違った。
ナマエもそんな元気のないミカサを心配していたのか、夕飯時、スプーンを握っていた手をいきなりテーブルにドンと叩き付けて宣言した。
会えないのならこちらから会いに行けばいい、と。
妙に張り切って鼻息を荒くするナマエの一言でそれはその後すぐ実行に移されることになった。



「会えないのならこちらから会いに行けばいい。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのか不思議。ありがとう、ナマエ」

全然感謝するところじゃない。

「ううん、私はただ落ち込んでるミカサが心配だったから!でも正直自分の思い切った作戦に惚れ惚れしてる!」

作戦も何もないと思う。

「アルミンもついて来てくれてありがとう!」
「いや、君たち二人じゃ何をしでかすかわからないし…。それに僕は協力するために来たんじゃなくて止めに来たんだけど…」

人一人通らない廃れた夜道を三人で馬を走らせながら答える。
止めに来たはずなのに何で僕まで馬に乗って走っているのか。

「ねぇ、やっぱりやめようよ。そもそもどうやってエレンに会うつもりなの?旧調査兵団本部にいるってわかったのはいいけど、まさか正面から乗り込んでエレンに会わせて下さいなんて言うつもり?無理だよ。そんなことを言ったって会わせてもらえるわけがない。エレンは多分厳重に保護されているはずだ。いくら昔からの友人だって言っても今の状況じゃそんなことは関係な…」
「アルミン、あなたはエレンに会いたくないの?」
「…そりゃ会いたいよ。会いたいけど、それとこれとは話が…」
「もーアルミン、そんなにぺらぺら話してたら舌噛むよ?ここまで来たら協力してもらうからね!」

……もう何を言っても無駄だ。
エレンのことに関しては見境ないミカサと、どこか頭のネジが一本抜けていて常に突っ走り気味なナマエとで、暴走癖のあるこの二人には今どんな説得をしたって役に立たないんだろう。
もし運良く一目でもエレンの姿を確認出来たら満足するのかもしれない。
なるべく大事になりませんように、と心の中で祈りながらひたすら馬を走らせた。



********************



旧調査兵団本部は妙に貫禄がある古城で壁と川から離れた場所にあった。
そこから少し離れた場所に馬を繋ぎ、静かに入口へと近付く。

「…本当に行くの?」
「ここまで来たらやるしかないでしょ!」
「大丈夫。エレンはすぐ近くにいる」

はぁと溜め息を吐いてから辺りをきょろきょろと見回す。
それにしても随分大きい城だ。

「入口から堂々と入るのは得策じゃないよね。裏口から探そう」

ナマエがやけに神妙にそう言うとミカサがこく、と頷いた。
それには僕も同意見だ。
入口から行ったって簡単に追い返されるのが目に見えている。
いや、むしろ追い返された方がいいんじゃないのか。何のお咎めもなくただ追い返されるだけならまだマシだ。
もう自分でもどうしたいのかわからなくなってしまって更に一つ溜め息をつく。
裏口を探して城を周りこもうと歩き出した。

「おいお前ら」
「!?」

いきなり僕たち以外の声がして心臓と身体がびくりと跳ね上がった。
慌ててそちらに目をやると、不機嫌そうに立っている一人の人物。

「何をしている」
「リ、リヴァイ兵長…!?ど、どうして…」
「ネズミがうろついてる気配がしたんでな。来てみれば案の定だ」
「!ネ、ネズミならさっきあっちへ行きましたよ!」

ナマエはちょっと黙っていてほしい。

「ネズミは例えで、お前達のことだ。何をしてると聞いてる」

人類最強と言われるあのリヴァイ兵長が、眉間にしわを寄せて苛々した様子で立っていた。
あぁ、もう駄目だ。早速大事になってしまったみたいだ。

「…エレンに会いに来ました」

審議所でのことを思い出したのか、ミカサがぎ、とリヴァイ兵長を睨み付けながら答えた。
こんな時でも物怖じしないミカサは素直にすごいと思う。
あと僕の右腕が緊張しまくっているナマエの左手にぎりぎりと掴まれていてちょっと痛い。

「お前らは何だ?あのガキの知り合いか?」
「家族です」
「ゆ、友人です!あの、エレンに会わせて下さい!」

僕の右腕をぎゅうぎゅう掴みながらミカサに続いてナマエも答える。

「…わざわざこんな所まで来たのはいいが、そう簡単に会わせると思うか」

ぐ…と言葉に詰まった二人は苦い顔をしている。それはごもっともだ。

「帰ってクソして寝ろ」
「クソでも何でもしますから、ちょっとだけエレンに会いたいんです」

すすす、とさりげなく僕の後ろに移動して身体を隠したナマエが食い下がる。
僕を盾にしないでほしい。

「聞こえなかったか?駄目だ、帰れ」
「……リヴァイ兵長って結構ケチなんだね」
「ちょ…ちょっと、ナマエ!」
「あ?」

ぼそぼそと僕に耳打ちしたナマエに心底焦る。
案の定聞こえていたみたいでリヴァイ兵長はぎろりと睨みをきかせてこっちに視線をやった。

「俺がケチとは良い度胸じゃねぇか…」
「実際にケチなんだから仕方がない」

ミカサああぁぁあ!

「……いいだろう、ついて来い」

どれだけ怒りを買うのかとヒヤヒヤしたけれど、兵長はチッと舌打ちをしてからそう言うとさっさと歩き出してしまった。
顔を見合わせた僕たちは、とりあえず兵長の後について行ってみることにした。
ここまで来たらもうどうにでもなれ。



********************



ずんずん歩き出した兵長の後に続いて僕たちもそれに続く。
どこに向かっているんだろう。もしかしたら罰を受けるのかもしれないと思うと落ち着かない。

「エレンは元気にしているんですか」
「ああ」
「エレンは普段ここでどんな風に過ごしているんですか」
「巨人化実験と……あとはほぼ掃除だ」
「は?」
「掃除だ」

先頭を兵長が歩き、その一歩後ろをミカサが歩いて先程からエレンについて質問を繰り返している。
面倒くさがらずに答えてくれている兵長はもしかしたら結構親切な人なのかもしれない。
ミカサの更に後ろを僕とナマエが並んで歩く。

「ここまで来たかいがあったね!」
「会わせてもらえるのかどうかはわからないけどね…」
「ミカサも元気になったみたいで良かった!」
「元気…というか…。まぁ、うん…元気か」
「兵長も結構優しいんだね!さっきケチとか言っちゃって悪いことしたなぁ」

にこにこしながら話すナマエは本当に脳天気だなぁと思うけど、そこが彼女の良い所でもある。時と場合によるけれど。

「兵長!」
「なんだ」
「兵長って小さいけど器は大きいんですね!」

前言撤回。
ばか。ナマエのばか。
ナマエなりに褒めたつもりなんだろうけど一言多い上に案の定兵長のこめかみがぴくぴくしている。お願いだからもう黙ってて。

「ふざけてんのか。お前の方がチビだろうが」
「あんまり変わらないですよー。ね、アルミン」

頼むから僕に振らないでくれ…。

「…おい、お前」
「は、はい!」
「そこのうるせぇチビ野郎を黙らせておけ」
「す、すみません…」

めっ、とナマエを怒ったらぶーぶーと頬を膨らませて拗ねていた。
そんな顔したって駄目だよ。


********************



「ここだ」

そう言うと兵長は大きな窓の前で立ち止まった。

「言っておくが会わせることは出来ない。姿を見るだけで我慢しろ」

ミカサが何か言いたげにしていたけれど、渋々窓を覗き込んだ。僕とナマエも後に続く。
窓の向こうは食堂だろうか。
大きめのテーブルを数人が囲んでいて何かを話しているのが見える。

「あ、」

一人一人の顔を確認していくと、よく見知った顔に気が付いた。エレンだ。
調査兵団の先輩方と何やら談笑しているらしく、どうやら上手くやっているみたいだとほっと安心する。

「エレン、元気そうだね!」
「うん」

嬉しそうなナマエと、言葉はなかったけれど表情を和らげるミカサを見て、来て良かったかもしれないとほんの少しだけ思う。
勿論僕もエレンの元気そうな姿を見れて良かった。
リヴァイ兵長にも感謝しなきゃ。

「リヴァイ兵長、あの…無理を言ってしまってすみませんでした。エレンの様子が見れて良かったです。ありがとうございます」
「…ありがとうございます」
「また来ます!」
「……もう来るなチビ野郎」

…ナマエには後で色々と言って聞かせなきゃ…。
今日何度目かわからない溜め息を吐いた。



でこぼこパレード
帰り際、宿舎に帰るまでが遠足ですとかなんとか言い始めたナマエに頭を抱えた。そもそも遠足じゃないよ…。





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