毎日厳しい訓練を受け、鍛練に励む訓練兵と言えど年は15そこらの少年少女。
ここにいる104期生も例外ではなく、訓練の合間に恋の話や噂話等のお喋りに花を咲かせるのが常だった。

夕飯の後の休憩時間。
女の子たちが集まって話す今日の話題は、こんな恋がしたいとか、結婚したらこんな家庭を築きたいとかごくありふれたものだった。
ここにいるのはみんな兵士だから、恋をするとか結婚するとかそんな当たり前の事でも難しい。
けれど、兵士だからこそ、叶えるのが難しいからこそこんな風に語り合いたいのかもしれない。ちょっと切ない。

私はと言うと輪の中にはいるものの女の子たちがきゃっきゃしながら話すのを上の空で聞いていた。
恋する女の子は可愛いと思う。
私もそこに分類されるんだろうけど、どこか他人事のように感じていた。

「やっぱり結婚するなら地位も財産もそれなりじゃないとね!」
「ミーナ、目当てがいるの?」
「…いないけど。クリスタはどうなの?」
「私も特に…」
「ユミルが泣きますね」
「あ?サシャ明日の水汲み代わってくれるんだって?助かるぜーありがとよ」
「えっ!?」

この雰囲気だと私が告白をした話をしたら大いに盛り上がるだろうけど、さすがに言い触らすような話題でもないし囃立てられるのも癪だから自分から面倒な事はしない。
本人と、ジャンにしか話していないけど誰からもその事を聞かれていないとなると二人とも誰にも話してないんだろう。少しほっとする。

「私はフランツとごく普通の幸せな家庭が築けたらそれでいいかな」

ハンナが頬を染めてのろけると、周りからひゅーひゅーとか熱いね〜なんて野次が飛んでハンナは更に赤くなっていた。
近くで同じように輪になっている男の子たちの方はと言うとやけに静かだ。
フランツの様子を伺ってみるとここからは背中しか見えないけど耳が赤い。
隣りのコニーがフランツの肩を小突いている。
あれは絶対聞いてる…いや、フランツとコニーだけじゃなくてみんなで聞き耳を立てている。青春だ。

「ミリアは?」
「ふぉっ!?」

いきなり話を振られてびっくりして変な声が出てしまった。
な、何の話だっけ?

「えっと、ごめん。聞いてなかった」
「もーなんかぼんやりしてると思ったら!ミリアの好きなタイプってどんな人なの?」

咎めるような視線を寄越した後、期待に満ちた表情でミーナが私に尋ねる。

「タイプ…?うーんどうだろ」
「色々あるでしょ?顔はかっこよくなきゃ駄目とか、性格が優しい人とか」
「食べ物をくれる人とかですか?」
「それはサシャだけじゃない…?」

女の子たちから送られてくるキラキラした視線がちょっといたたまれない。

「そりゃ優しい人は好きだよ。顔は…あんまり気にしないかなぁ」
「もっと具体的に!」
「えぇ〜…うーん…あんまり考えた事ないしなぁ。好きになった人がタイプって事じゃダメ?」
「何その口ぶり!もしかして好きな人がいるの!?」

はっ!
もしかしてもしかしなくても墓穴を掘った…?
ミーナがきらきらした目で身を乗り出して私に詰め寄る。
女の子達の野次馬根性と言うか噂話への興味は恐ろしいものがあると常々思う。

「フュ、…♪〜〜」
「何その下手くそな口笛。ごまかしきれてないから」

今日のミーナさん怖い。
ミーナだけじゃなく周りの女の子たちが狩人のような目付きで私を凝視してくる。
これは完全に獲物を狙っている目だ。怖い。

「ミリアってこういう話にあんまり乗ってこないから興味ないのかと思ってましたよ」

サシャの言葉にそんな風に思われていたのか、とちょっと驚く。
確かに他人の恋だの愛だのの話は正直あんまり興味がない。
冷たい人間なのかもしれないけど、結構そういう人も多いんじゃないかななんて思う。
ジャンにはこの前そういう話題を振ったけど、参考にしようと思って聞いてみただけでジャン自体の恋の行方は正直な話心の中で応援するのが半分、からかうネタ半分ぐらいにしか思ってない。ごめんジャン。

「何気にモテるのよね〜ミリアって」
「えっ」
「気付いてなかったの?」
「いやぁそんな…私なんて女神クリスタに比べたら月とスッポンなので…」
「えっ私?」
「そりゃそうだ。比べるのもおこがましいな」
「ユミルさすがにひどい」
「スッポンって何ですか?食べられますか?」
「サシャは本当に色気より食い気よね」

鼻息を荒くし始めた相変わらずなサシャにみんなが呆れながらも笑った。
そんなサシャのおかげで私の話はうやむやになったみたいでホッと安心する。

他人のタイプや恋にはあまり興味がないけれど、でも自分が好きな人となると話は別だ。
ふとアルミンの好きなタイプはどんな人なんだろうと考える。
告白しておいて今更だけど、そこはちょっと…いやかなり気になる。
今度聞いてみようかなぁ。



教えてよ、
全部知りたい





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