※アルミン誕



「あ、アルミン…!やっと見つけた…!」

つい一時間程前、ミカサに言われた衝撃的な一言を聞いてから今まで、必死になってアルミンを探していた。
男子の宿舎や食堂に訓練場、裏庭や医務室など思い付く場所は全部探してみたけどどこにもいなくて。
やっとの思いで目当ての人物を見つけた私は、ぜえぜえと息を切らしながらその人に近付いた。
時刻はそろそろ消灯の時間。
日付が変わる前に、今日中に伝えなければ意味がなくなってしまう、と必死に探し回った。

「ミリア?そんなに慌ててどうかしたの?」
「アルミン今までどこ行ってたの…」
「資料室でちょっと本を読んでたんだ。もしかして探してた?」
「うん。ものすごく」
「ごめん、つい夢中になっちゃって。何か用があった?」
「アルミン、今日が何の日だかわかってる?」
「今日?……あ、」

はっとした顔をしたアルミンは、11月3日の今日が何の日だか思い出したようだ。
一年の中で、特別で大切な一日。

「忘れてたの?」
「忘れてたわけじゃないけど、今日の訓練は結構大変だったから考えてる暇がなくてさ」

要するに忘れてたというわけだ。
だけど文句は言えない。
だって私がそのことを知ったのはついさっきなんだから。

「さっきミカサにミリアはアルミンの誕生日を祝ったのかって聞かれて間抜けな声出しちゃったよ…」
「そういえば言ってなかったっけ。エレンとミカサには朝祝ってもらったよ」
「そうなんだ…」

私が一番最初にお祝いしたかったなぁ、なんてちょっぴり残念に思ってしまう。
一番にお祝いどころかもうすぐ日付が変わってしまうし、ミカサに言われなかったらおめでとうすら言わないで今日が終わるところだった。
そりゃあ聞かなかった私が一番悪いけど、今日誕生日なんだ、ぐらい言ってくれても良かったんじゃないだろうか。
アルミンのことだから言わないか。

「アルミンの誕生日知らなかったなんて私ってばもう最低…」
「そんな、大袈裟だよ」
「大袈裟じゃないよ!大事な人の誕生日はちゃんとお祝いしたいもん」
「ミリア…」

私が少しむきになってそう言うと、アルミンは面食らったみたいにちょっと驚いた顔をした。
生まれて来てくれて、出会ってくれて、一緒にいてくれてありがとうと感謝の気持ちを素直に伝えることが出来る大切な日なんだから。
とは言うものの、何せ知ったのがついさっきだからプレゼントも何も用意していないわけで。

「…ごめんねアルミン。プレゼントとか、何も準備してなくて。今日はもう用意出来ないけど、何か欲しいものとかある?」
「いいよ、そんな。気持ちだけで充分だよ」

アルミンならそう言うんだろうなっていうのは予想していた。だけどそれじゃ私の気持ちが収まらない。
誕生日を知らなかった挙げ句、お祝いするのがぎりぎりになってしまったなんて。
何か、何かないかな……あ。

「……じゃ、じゃあアルミンに私をプレゼント〜…なーんて…」
「……もらっていいの?」
「だよねーいらないよね…って……へ!?」

てっきり呆れられるか大真面目にもらえないよとかなんとか返されるかとばかり思っていたから予想外の反応に間抜けな声が出てしまった。
予想外ついでにアルミンが近付いて来たと思ったら私の身体を控え目にぎゅっと抱きしめてくるものだから更に頭が混乱する。

「え、えええ!?」
「驚きすぎだってば…」
「だ、だってアルミン…!」
「ミリアを僕にくれるんだろ?」
「えっあっ、あげる…けど…!でもアルミンからこういうことするの、珍しいっていうか…!」

混乱して腕をばたばたさせていると、耳元でくすりとアルミンが笑った。くすぐったい。

「ミリアが祝ってくれるって言うから、誕生日ぐらいは欲張ってみてもいいかなって思って」

アルミンはいつも人のことばっかりだから、むしろもうちょっと自分のために振る舞ってもいいんじゃないかなとは思うけれど。
だけどこれじゃあアルミンじゃなくてまるで私の方が誕生日みたいだ。

「でもやっぱりちょっと恥ずかしいね」
「う、うん…」

ゆっくり身体を離してから、薄暗い廊下でもわかるぐらい赤くなってるんだろう私の顔を見つめてアルミンがくすりと笑う。

「…なんだかアルミン楽しそう」
「だってミリアがいつもよりおとなしいから、ちょっと可笑しくて」
「アルミンが予想外のこと言うしやるからだよ」
「駄目だった?」
「駄目じゃないよ。嬉しかった」
「そっか。僕もプレゼント、嬉しかったよ」
「…こんな苦し紛れのプレゼントが?」
「一番欲しかったものだしね」
「……アルミン今日はずいぶん積極的だね」
「誕生日だから浮かれてるのかも」

お互い顔を見合わせてくすくす笑った。
幸せってこういうことを言うのかもしれない。
大好きな人の特別な日を一緒にお祝い出来るのは、とっても嬉しいこと。
次の年もこうしてお祝い出来たらいいな。
でもその前に。

「アルミン」
「ん?」
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう、ミリア」

ちょっぴり照れくさそうに、嬉しそうにふわりと微笑んだアルミンはとても綺麗で格好良かった。
なんだかきらきらして見えたのは雲の隙間から覗き始めた月明かりのせいだけじゃないと思う。
どうか彼の未来に小さくてもいい、だけどたくさんの幸せが訪れますように。



幸せを祈る
両手いっぱいに愛を込めて






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