「良い酒が手に入った」とにやりと笑いながらジャンが持ってきたのはワインやらウィスキーやら、結構な量のお酒だった。
ジャンは酒豪だ。毎日忙しい調査兵団団長様だけど、仕事が一段落したり暇が出来たりすると街の酒場に出掛けては朝方まで飲んでいたり、酒場に行かない日でも自分の部屋に常備しているボトルを景気良く開けているのを知ってる。
今回もそんな馴染みの酒場の店主から良いお酒を頂いたらしく、夜、上機嫌になりながらアルミンの部屋にやって来た。当然のように彼の部屋のソファで本を読んでいた私を見て「お、やっぱりミリアもいたな」なんて言った。
ジャンがお酒を持ってきて、アルミンの部屋に集まって小さな宴会を開くのはいつの間にか恒例行事のようになっていた。何でアルミンの部屋なのかはよく覚えてないけど、最初がそうだったから今でもそれが続いている。確か三人の中でアルミンの部屋が一番綺麗に片付いているし、周りに空き部屋が多いからって理由だったかな。ジャンは酔うと声が大きくなる。部屋を貸している当のアルミンはあまり乗り気じゃないみたいだけど。かと言ってお酒に弱いわけではなく、アルミンが酔っ払ったところは今まで数える程しか見たことがない。
ジャンは私の隣りのスペースに腰掛けて早速ワインのボトルを開け始めた。私は読んでいた本を閉じてその辺に置いた。今は本よりこっち、とその様子を眺めながら少しわくわくしてしまう。お酒は強い方じゃないけど結構好きだ。

「僕まだ仕事してるんだけど…」

執務机について書類仕事をしていたアルミンはじとりと呆れたような目でジャンを見た。

「それが終わったら参加するだろ?今日のはなかなかの上物だ。飲まないと損だぜ」

機嫌が良さそうに歯を見せて笑ったジャンは早速グラスに深みのある赤紫色の液体を注いだ。
まだ仕事をしているアルミンには悪いけど、お先に。二つのグラスをかちりと合わせて乾杯、の一言の後ぐいっと飲み干した。



********************



「まったくよ、調査兵団の団長ってのも楽じゃねぇよな」

赤い顔をしながらジャンが大きな声で愚痴をこぼす。さっきからこの調子で自分の仕事についての文句や不満を挙げては一人で怒ったり弱音を吐いたりしている。酔うとわりといつものことなのであまり気にせず適当に相槌を打ったり叱咤したりしているけれど。
私の方はと言うと頭はくらくらするし体はふわふわ浮いているようだしこれは完全に酔いが回っているような気がする。

「何でいつもいつも上や憲兵の奴らから文句言われなくちゃなんねぇんだ。俺だってな、昔は憲兵目指してたんだよ」
「それが団長の仕事だもん。しょうがないでしょー?」
「お前はいいよな。いつもアルミンの部屋でダラダラしてるだけだもんな」
「ちょっと、聞き捨てならないんですけど!私だってちゃんと仕事してますー!」
「どうだか。どうせ今日だってこの部屋に一日中入り浸ってたんだろ」
「……悪い?」
「ほら見ろまともに仕事なんかしてねぇじゃねえか」
「してるし!書類作成とか班の訓練内容考えたりとかしてたし!」
「どうだか。まぁアルミンに聞けばわかることだがな」

馬鹿にしたようににやにや笑うジャンの憎たらしい顔を睨み付けてから、グラスに残っていた琥珀色のアルコールを一気にぐいっと煽った。

「アルミン!私らってちゃんと真面目に仕事してることジャンに教えてやってよ!」
「呂律回ってねぇぞ」

まだ仕事をしているアルミンの方に視線をやると呆れたようにはぁ、と大きく溜め息をついてから椅子から立ち上がりこちらに近付いてきた。
床に転がった空瓶やつまみの入っていた袋を見て顔を顰めた後、私とジャンの手にあったグラスはあっけなくアルミンに回収されてしまう。

「あーもう、二人とも飲み過ぎ。今日はここまで」

えー!と声を揃えた私とジャンの訴えも虚しくえー、じゃない。と二人分の不満の声はぴしゃりと遮られてしまった。

「あーあ、上物って言うから僕もちょっと飲みたかったのにもう全然残ってないし…」
「悪い悪い。また仕入れてくるからよ」
「こっちのはまだ残ってるよ」

さっきまで使っていたグラスはアルミンに没収されてしまったので、テーブルに置いてあったグラスにウィスキーを注ごうとしたところで「もうおしまい」と再び取り上げられてしまった。

「えーアルミンも一緒に飲もうよー」
「僕は明日…と言うか日付けではもう今日だね。朝から会議があるから。ジャン、君もだろ」
「へーへー。……うっぷ」

面倒くさそうに返事をしたジャンは突然青い顔をして気分が悪そうに口元を抑えた。

「やべ飲み過ぎた…吐くかも」
「勘弁してくれよ…。言っておくけど自業自得だしここで吐いたら怒るよ」
「分かってるっつーの。じゃあすまん後は頼んだ」

ふらふらと部屋から出て行ったジャンはそのままお手洗いに向かったらしい。たまに調子に乗って浴びるように飲んだ後ああやって悪酔いするから手に負えない。
そういう私も頭のくらくらは最高潮に達しているし相変わらず体はふわふわしているしで気分が良くて気持ちが良い。

「えへへ…なんだか楽しい」
「わっ」

ソファの前に立っていたアルミンの腕を引いて隣りに座らせる。アルミンは一瞬よろけたものの両手に持っていたグラスを落とさないように注意を払いながらそれをテーブルの上に置き、やれやれと言った感じで私を見下ろした。

「ミリアはあんまり強くないんだから程々にしなきゃ駄目だっていつも言ってるのに」
「はいはい」

お酒が回って気分が良いから小言を言われても今は気にもならず、隣りに座ったアルミンの首に腕を回してぎゅうっと抱き付く。

「…ちゃんと聞いてる?」
「聞いてまーす」
「甘えたい気分?」
「うん」

抱き付いているから顔は見えないけど、困ったものだとでも言いたげな雰囲気が伝わってくる。
猫みたいにアルミンの首に頭を擦り付けてぐりぐりすると、髪を優しく梳くように撫でられて更に気分が良くなってしまう。

「ふふふー」
「…楽しそうなのはいいけどミリアが酔っ払った時のその甘え癖はどうにかならない?」
「えー。だめ?」
「よそでやったらだめ」
「アルミンにしか甘えないって」
「どうだか」

おお?これはもしかして独占欲というやつでしょうか?アルミンは滅多にそういう素振りを見せないからこれは珍しいと顔を覗き込んだら、まるで噛み付くような、少し乱暴な唇が私のそれを奪った。突然のことに多少驚いたけれど拒否する理由もないので甘んじてそれを受け入れる。
テーブルに放置したグラスの中の氷がからんと小気味良く立てた音がやけに大きく聞こえた。
夜はまだ長い。



琥珀色の誘惑
酔っ払いごと飲み込んでしまおうか






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