朝、調査兵団本部の食堂で他の兵士に混ざっていつものように質素な朝食を食べる。
私の隣りにアルミン、アルミンの向かいにはジャンが座っていて何やら書類片手に今日の予定を話し合っているらしい。調査兵団の団長と分隊長は朝から大変だなーなんて呑気に考えながらパンをちぎっていると、新兵らしい女の子二人組がこちらを見ながらそわそわしているのが目に入った。
どうかしたのかな。
しばらく何かをこそこそ話していた彼女たちは意を決したかのように目をきらきらさせながらこちらのテーブルに近付いて来た。二人の視線の先はアルミンに向いていて、ああもしかして、と一つの考えが頭に浮かぶ。
彼女たちは恥ずかしそうに顔をほんのり赤くさせながら、未だジャンとああだこうだと話しているアルミンに話し掛けた。

「アルミンさん、おはようございます」

声を掛けられて彼女たちに気付いたアルミンは、見ているこっちがくらくらしてしまいそうな爽やかな笑顔で挨拶を返した。

「おはよう」

彼女たちは一瞬時が止まったかのようにほう、とうっとりしたような表情を浮かべてから、ジャン団長とミリアさんもおはようございます、と声を掛けて来た。明らかに私とジャンはおまけなのが丸分かりで少し面白くないけれど顔には出さないように気を付けながら笑顔で挨拶を返す。一応大人だしね。
きゃー挨拶しちゃったなんてはしゃぎながら去っていく彼女たちの背中を見つめながら呑気だなぁなんてぼんやり思う。
普通なら可愛いなぁ、若いなぁなんて微笑ましくなるところだけどその対象がアルミンとなるとまた話は違ってくるわけで。

「おいミリア」
「……」
「…おい、アホ女!」
「え!?なに!?」
「…自分の名前よりアホ女の方に反応するとはな。どうした、間抜け面が更に間抜けになってるぞ」
「ぼーっとしてたみたいだけどどうかしたの?」
「あ、あー…うん。その…アルミンはモテるなぁって思ってた」

ジャンの失礼な物言いはまぁいつものことだから癪だけど置いておくとして、言うか言わないか迷ったけど別に隠すことでもないし…と正直に打ち明ける。

「え?」
「今の子たちアルミンのこと好きみたい。若いっていいね」
「?ただ挨拶しただけじゃねぇか」
「分かってないなぁ!そんなんだからいつまでたってもジャンはジャンなんだよ」
「おいどういう意味だ」

まぁそうは言ってもジャンが結構モテるのも知ってる。以前班の子にジャン団長の好きなタイプってどんな人なんですか、なんて聞かれたっけ。
ジャンは黙っていれば顔は悪い方ではないとは思うし背も高いしスタイルも良い。
それに調査兵団の団長として兵士たちを指揮し、まとめ上げる姿は正直に言うと頼もしいしかっこいいと思う。私とは普段喧嘩ばかりだし悔しいからあんまり認めたくないんだけど。

「まぁジャンもそこそこ人気あるんだから頑張れ」
「何をだよ」
「色々と。ジャンは理想が高すぎるんだよ」
「…うるせぇ。オレのことはいいんだよ。で、何だっけか?アルミンがモテるからミリアが不貞腐れてる話だったか」
「な!べ、別にそんなことないし!」

思わず大きな声を出して否定するとジャンはニヤニヤと笑いながら私を見た。うわー腹立つ。
確かに面白くないとは思ったけどまさかジャンにそれが見透かされたなんて屈辱だ。なるべく何でもない風を装って、表に出さないように気を付けたつもりなのに。

「お前はすぐ顔に出るからな、分かりやすいんだよ。どうだアルミン、嫉妬されてる今の気持ちは」
「まぁ悪い気はしないよね」

それまで黙ってスープを口に運びながら私たちの話を聞いていたアルミンは、にっこりと…それこそさっきの女の子たちに向けた以上の笑顔でそんな風に言ってのけた。
こ、この二人完全に面白がってるぞ…!
むっとして二人を睨み付けながらふんと鼻を鳴らす。

「私が新兵の子に嫉妬するわけないでしょ。大人の余裕ってやつよ」
「大人の余裕ねぇ…。お前にそんなもんがあるとは思えねぇけどな」
「あるし余裕ありまくりだし」
「嫉妬してくれないの?」
「しーまーせーんー」

間延びした返しをしながらあと一口ほどだったパンをぽいっと口に放り込む。
首を傾げて聞いてくるアルミンにさえつい意地を張ってしまうのは仕方がない。恥ずかしいし居た堪れないし。うん、仕方ないんだ。

「そういやアルミン、この前後輩に次の休みは暇じゃないか聞かれてなかったか」
「ん?あぁ、そう言えば聞かれたかも」
「……」

なにそれなんだそれデートのお誘いってやつですか。恋人を差し置いて可愛い(かどうかは知らないけど)後輩とデートするんですか。
一瞬、アルミンと知らない女の子が二人で歩いている姿を思い浮かべて自分の想像にショックを受けてしまった。何を考えてるんだ私は。
がたりと音を立てて椅子から勢い良く立ち上がるとテーブルの上のカップが揺れた。私を見上げている二人をきっ、と睨む。

「もうアルミンなんて知らないから!」

捨て台詞を吐いて逃げるように食堂を後にした。



大人の余裕なんてありません

「…ちょっとからかいすぎちゃったかな」
「どうせすぐ忘れるだろ」






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