他の団員に比べると、随分広さがあって高級感のある調査兵団団長の部屋。
普通の兵士ならばその部屋に入る機会はなかなかないだろうと思う。
本当に一緒に来るの?と困り顔の分隊長の後に続いてその部屋に入ると、案の定部屋の主は私の姿を確認すると眉を寄せて不機嫌そうな声音で話し掛けてきた。

「おい」
「はっ。何でしょうかジャン・キルシュタイン団長」
「気色悪いからやめろ」
「申し訳ありません!」
「なんでお前がいるんだよ」
「呼ばれた気がした」

呼んでねぇよ…と深く溜め息をついた調査兵団団長、もといジャンは呆れた様子で額に手を当てている。お疲れ様です。

「オレはアルミンだけ呼んだはずなんだが」
「いくら団長だからってアルミン独り占めなんて許すわけにはいかないんだからね!」
「別に独り占めなんかしてねぇだろ…。おいこいつどうにかしろアルミン」

投げやりに話を降られたアルミンは、ちょっと困ったような顔をして笑っている。

「部屋で待っててって言ったんだけどね」
「アルミンはミリアを甘やかしすぎだ」
「それは少し自覚してる」

アルミンはちらりと隣りにいる私を見下ろして、目が合うと首をちょっと傾げてにっこり微笑んだ。
その動きに合わせて昔よりも僅かに短くなった金色の髪が揺れる。
くそう、なんてことない仕草がとんでもなく格好良く見えてしまうのは惚れた欲目と言うやつか。
甘やかされている、のかどうかはよくわからないけれど大事にはされていると思う。
アルミンは元々優しいし、年を重ねるにつれてフェミニストっぷりに磨きがかかった気がする。
ただ時々ちょっぴり意地悪になったけど。

「お前らいちゃつくなら余所でやれ」
「呼んだのはジャンでしょー」
「だからお前は呼んでねぇっての」

じろりと私を睨んだジャンは舌打ちして頬杖をついた。
目を尖らせる事によって悪人面が更に強調されている。
初めてこの機嫌の悪そうなジャンを見た新兵は団長は怖い人なのかと萎縮してしまう者も多いけれど、こっちはもう慣れっこなので今更怯えるでもなく受け流す。

「そもそも調査兵団はアルミンに頼りすぎだと思うんだよね」
「そりゃお前も人の事言えないだろうが」
「私はいいの」
「はぁ?どういう理屈だよ」
「言っていいの?ジャン悔しがるよ」
「なんだ未だにオレが独り身だって馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿にはしてないけどまぁそんな感じ」
「お前そんなにかわいくねぇといつかアルミンに捨てられるぞ」
「縁起でもないこと言わないでよジャンのアホ。馬面」
「よし次の壁外調査で巨人のエサ役は決定したな」

ギリギリと睨み合う私たちの間に入ってまぁまぁ二人とも、とアルミンがなだめる。
私とジャンがもはや恒例の喧嘩をして、間に入ったアルミンがそれを収める、という図は10年前から変わらない。

「えーっと、僕のために争わないでー…なんて」
「うん。争わない」
「お前は黙れ。なんつーか変わったよな、アルミン…」
「さっきミリアにも言われたよ…ごめん…」

自分から冗談を言ったのに恥ずかしそうに人差し指で頬をかくアルミンはとんでもなく可愛い。
昔は滅多に冗談なんか言わなくて大真面目な返しをするのがアルミンだったけれど、これも大人になって余裕が持てたからこそ習得したある意味成長ってやつなんだろうか。

「冗談は置いといて、僕はこういう面でしか役に立てないから出来る事は何でもするし自分の能力は兵団のために惜しまず使ってくれて構わない。それにミリアを捨てるなんてことは何があっても絶対にありえないよ」
「アルミン…!!」

言い切ったアルミンにきゅんとときめいて顔がだらしなく緩んでしまったのは仕方がない事にする。
お前はやっぱり相変わらずだなと言ってジャンが呆れたようにやれやれと首を振った。
こういうのもなんだけどジャンは苦労人と言うか、不憫と言うか、そういう役割が昔から妙に似合うと思う。
ある意味昔から一番変わっていないのはジャンかもしれない。

「それにしてもジャンが団長なんて10年前の同期からしたらびっくりだよね」
「まったく本人が一番信じられねぇよ。人生何が起こるかわかったもんじゃねぇな」
「そうでもないよ。ジャンは人の上に立つべきだっていうのは10年前から分かってた事じゃないか」
「ジャンは団長でアルミンは分隊長だもんね。なんだか私も鼻が高いよ」
「お前はもうちょっと頑張れよ」

作戦会議か何かをしに来たというのに主に私のせいでただ雑談をしに来たみたいになってしまって申し訳ない気持ちもあったけど、ジャンもアルミンもさして気にしていないみたいだし別にいいか。
目まぐるしく変化していった環境の中で、慣れ親しんだ同期とたまに目的もなく他愛もない世間話をするというのはひどく安心する。
変わるものと変わらないもの。
平凡な私が今までこうして生きてこれたのはアルミンと、ジャンと、同期の皆や頼れる上司のおかげなんだってふとしみじみ実感した。



揺るがない三角形
三人揃うと会議なんか始まらない





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