訓練兵を卒業してから、色々な事があった。
一言では言い表せられないぐらいの衝撃的な出来事の数々。
巨人によって再び壊されてしまった壁。
同期であるエレンの巨人化。
調査兵団への入団。
初めての壁外調査。
そこで起こった出来事は今でも鮮明に思い出す事ができる。
そして同期の裏切り。
次から次へと目まぐるしく移り変わる状況と共に私たちも挫折や成長を繰り返した。
あれから10年が経とうとしていた。


調査兵団第13代団長であったエルヴィン団長は現役を引退して、訓練兵を教える教官の役職に就いている。
人類最強と謳われたリヴァイ兵長も同じく現役を引退して、エルヴィン元団長と共に訓練兵を扱いているようだ。
ハンジ分隊長も引退はしたものの、調査兵団にしょっちゅう顔を出しては巨人の研究や実験を繰り返していて相変わらずだ。

そんな彼らの後を継いでまず団長になったのがジャンだと言うのだから、当時の104期生にそれを聞かせたらひどく驚くか笑い転げるかのどちらかだろう。
何せジャンは初め憲兵団に入ると豪語していたのだから。
トロスト区奪還作戦での親友の死によって、彼は変わっていった。
それが良いか悪いかなんてわからない、だけど少なくとも彼の行動は後に多くの人達に影響を与えた。

それから新たに兵士長になったのがミカサで、訓練兵の時とは比べ物にならないほどの実力をめきめきとつけまさに最強へと登り詰めて行った。
相変わらずエレン史上主義なのは昔と変わっていないし、綺麗な黒髪も、トレードマークになっていたマフラーも健在だ。

役職や肩書きは変わっても、根本的な部分は皆何も変わらない。
だけど随分遠くへ来た気がする。



「人生何が起きるかわからないよね」
「ん?」
「ちょっと昔のことを考えてたの」
「急にどうしたの?」
「昔のアルミンはすっごく可愛かったなーとか思い出してた」

アルミンは分隊長になった。
調査兵団に入った当初から大事な会議に呼ばれたり知恵を絞って作戦を練ったりしていたけれど、身も心も成長し参謀役が大分板についた今では調査兵団になくてはならない頼れる頭脳になっていた。

私は一応班長という肩書きはついているけれど壁外調査の時以外は暇なものでこうして分隊長の私室に入り浸っては好き勝手に過ごしている。
「可愛いっていうのは男としてちょっと褒められてる気がしないけど…」
「大丈夫、今はかっこよくなったから」
「ミリアは今も昔も可愛いよ」
「……たらし発言出た」
「その言い草…。ただ本心を言っただけなのにひどいなぁ」
「それがたらしなんだってば!恥ずかしいからさらっと言わないで!」
「ミリアが最初に言ったのに」
「自分が言うのはいいけどアルミンに言われると照れるの!」
「自分勝手なんだから」

くすくす笑うアルミンは余裕たっぷりみたいな顔をしていて、照れているのが私だけみたいでちょっと悔しい。
お返しをしてやろうと部屋の執務机について書類をまとめているアルミンの背後から近付いて、ぎゅーっと力一杯抱きついてみた。

「なに?」
「むむむ…面白みがない」

昔のアルミンだったらこんなことをされようものなら真っ赤になって慌てふためいていたはずだ。
成長とは時に嬉しく時に悲しいものだと物思いにふける。
月日の流れの虚しさをひしひしと感じていると、こんこん、と扉がノックされる音が部屋に響き扉の向こうからアルミンの部下の声が聞こえた。

「アルミン分隊長。宜しいでしょうか」
「はい」
「ジャン団長がお呼びです」
「わかりました。すぐに行きます」

では伝えておきます、と一言告げて部下は去って行ったようだ。

「えー行っちゃうの?」
「仕方ないだろ。最近何かと忙しいし近々壁外調査もあるんだし」

ジャン許すまじ。
このタイミングで部下を寄越すなんて狙ったとしか思えない、と頭の中で言い掛かりをつける。
体勢はそのままにぶーぶーと抗議していたらアルミンが立ち上がって私と向き合った。
調査兵団に入る前ぐらいまでは同じぐらいの身長だったのに、今ではアルミンの方が高くなっていて少し見上げないと目線が合わない。
成長ってやっぱり少し寂しい。

物思いに考えていたら目の前のアルミンが私の肩に右手を置いてちょっと腰を屈めた。
なんだなんだと様子を伺っていたら、薄く微笑むと私の額にそっとキスを落としていつもより少し低い声で囁いた。

「いい子にして待っててよ」

純粋で初心で可愛かったアルミンはいつからそんな気障な事をするようになってしまったの?
アルミンがやると嫌味にならないのがまたなんとなく悔しい。
私はと言うと赤くなっているんだろう自分の頬を両方の手で隠す事しかできない。

「…卑怯です分隊長」
「わ、真っ赤だ。今更恥ずかしがる仲でもないのに」
「不意打ちはずるい!」
「ミリアが寂しそうだったから置き土産のつもりだったんだけど」
「…アルミン変わったよね」
「そうかな?」
「何て言うか、したたかになった」
「色々あったからね。でもその色々を今まで乗り越えてこれたのはミリアがいたからだよ」
「…やっぱり変わったよ」
「変わった僕は嫌?」
「嫌じゃない。好き」
「なら良かった」

昔は私の方からぐいぐいいく事が多かったのに、今となっては一枚どころか二枚も三枚も上手になったアルミンにいいように翻弄されていて立場が逆転した気がする。
でもそれはそれでいいのかもなんて都合の良い事を考える。
だってかっこよくなったアルミンとこんな風に自然に話して、触れて、隣りに立っていられるから。
嬉しさが込み上げてえへへ、と笑うと彼もまた目を細めて昔と変わらない優しい表情で笑った。



変わらない愛をあげる
成長するって寂しいことばかりじゃないんだね





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