「今日ってエイプリルフールなんだね」

特にすることがなくてアルミンの家にふらりと遊びに来た私は、リビングでスマホの画面を見つめながらぼんやりと呟いた。
花の大学生なわけだし恋人らしくどこかに出掛けたり遊びに行ったりしたいなとは思うけど、今は春休みだからどこも混んでるわけで。
アルミンの家は居心地が良いし、別に特別なことをしなくてもアルミンと一緒にいるだけで満たされてしまう自分もいるしで結局は家でのんびりだらだらと過ごすことも少なくない。アルミンの方も特に不満はないらしいし。むしろアルミンはどちらかと言うとインドア派だからこういう過ごし方をする方が好きみたいって言うのは昔から変わらない。

「そう言えばそうだね。今日4月1日だし」

読んでいた雑誌から顔を上げたアルミンは、壁に掛かっているカレンダーに目をやると納得したような顔をして頷いた。

「サシャがラインで嘘ついてる」
「どんな?」
「今日からダイエットします!だって」
「それは…。いや、でももしかしたら本当かもしれないよ」
「サシャに限ってそんなことあると思う?」
「……ないかな」
「ないよ」

サシャがダイエット…即ち食事を減らすなんて何があっても絶対にない。あり得ない。それにサシャはあれだけよく食べるのに細いし出る所は出てるしでダイエットの必要なんかまったくないから正直かなり羨ましい。

「…ダイエットしなきゃいけないのは私だよ……」

最近2キロ太ったことは内緒だ。
たかが2キロ。されど2キロ。
あまり体重の変動がなく何年もずっと同じ数字をキープし続けて来た私にとってそれは結構衝撃的でショックな出来事だった。
お風呂上がりに、寝る前に、時間を変えて何度も体重計に乗ったり降りたりを繰り返してみたけど太ったという残酷な現実は変わらなかった。

「ナマエにダイエットする必要があるとは思わないけど…」
「それが必要になっちゃったんだよ」
「そう?見た目は全然変わらないけどなぁ」
「でも体重は増えたの…」

他の人からしてみれば心底どうでもいいと思う。でも私にとっては重要で、がさつだし女子力なんてものは彼氏にさえ負けてそうな自分の中にあるなけなしの乙女心は複雑に揺れているのだ。

「じゃあナマエもダイエットするの?」
「しなきゃなぁとは思いつつアルミンが作るご飯が美味しくて出来ないのが最近の悩み」
「ふふ。じゃあたくさん美味しいの作ってナマエのダイエットの邪魔しちゃおうかな」
「うぅ…面白がってるでしょ」
「ちょっとね」

くすくす笑いながら悪戯っ子みたいな表情で言ったアルミンは「でも本当にナマエはダイエットなんてする必要ないと思うよ」なんて優しい声音で言った。ちくしょうときめくわ。
ちょっと照れながらありがと、と小さくお礼を言ってスマホの画面に再び目を落とす。サシャには「じゃあ今週末の焼肉サシャはキャンセルね」と返しておいた。週末にクリスタとかユミルとか、高校の時の女子メンバーで久しぶりに会おうって約束をしていて、何故か焼肉になったのはサシャの「お肉食べに行きましょう!」の一言のせいだった気がする。10秒後には「嘘です」と返ってきた。早い。

「うーんそれにしてもエイプリルフールかぁ。何か嘘つきたいなぁ」

サシャに便乗ってわけじゃないけどせっかくだし私も乗っかりたい。
すぐバレる嘘じゃつまんないし、かと言って嘘か本当か分からない嘘をつくのもなぁ。

「私は料理が得意です、とか」
「そうなるように頑張ろうか」
「実家に帰らせて頂きます」
「…元々実家に住んでるよね」
「結婚します」
「……誰と?」
「言わせないでよ恥ずかしい」

きゃ、とわざとらしく頬を両手で覆ったら呆れた視線を向けられた。ごめんなさい。

「思いつかないんだもん」
「無理して嘘つかなくたっていいじゃないか」
「だってー」
「それにエイプリルフールって嘘ついていいのは午前までらしいよ」
「えっそうなの!?もうとっくに過ぎてる…!」
「あとついた嘘はその一年間は実現しないんだって」
「え」

思わず目の前のアルミンの顔を凝視する。慌てて雑誌に視線を落としたアルミンのほっぺたは僅かに赤く染まっていた。

「けっこん……」
「!」
「で、でもまぁ私たちまだ大学生だし…実現しないのは一年だけでずっとじゃないんでしょ?うんそれなら大丈夫大丈夫」

何も一生結婚出来ないわけじゃないから大丈夫、うんうんと一人で納得していたら読んでいた雑誌で顔を半分隠したアルミンが私をじっと見つめていた。何そのポーズ可愛い反則。

「何か言いたげですねアルレルトさん」
「…するの?結婚」
「えっ、しないの?」
「…言わせないでよ恥ずかしい」

顔が勝手ににやけるのを隠しもせずそれさっき私言った、と抗議したら楽しそうに笑ってた。
なんだかんだでエイプリルフール満喫しちゃった。



嘘吐きの有効期限
嘘が本当になるまであと、






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