幼馴染みのコニーとはたまに屋上で昼休みを一緒に過ごす。
いつもはそれぞれ違う友達と過ごしているんだけれど、気が向いた時とか天気が良い日とかに「今日屋上行くか」「おー」みたいなどこか気の抜けたやりとりを交わし、お弁当を持ってなんとなく屋上に集合する。
今日の英語の時間は半分寝てたとか、明日の小テストの勉強を何もしていないとか、次の体育はバレーだから気合い入れるぞとか、なんてことない会話をしながらお昼ご飯を食べる。
私はその時間が嫌いじゃないしむしろ結構気に入っている。コニーとは随分昔からの付き合いだし今更気を使ったりしなくていいし一緒にいて楽だから。コニーの方も多分同じように思っているんじゃないかなと思う。
私は一人っ子だけどコニーの家は兄弟が三人いて彼らのことはよく知っているから、自然とその話題もよく出ている気がする。
家も近いし昔はよくお互いの家を行き来して遊んでいたんだけれど、高校生にもなるとそんな機会はぐんと減っていた。部活や勉強、他の友達との付き合いでなかなか忙しいし、やっぱりこの年になるとなんとなく気恥ずかしいものもあるし、仕方がないのかなと思う。
唐揚げをもぐもぐ咀嚼していると、大きめなおにぎりを一気に頬張ったコニーがあご辺りにご飯粒を付けながらそう言えば、と切り出した。

「昨日何でか忘れたけどナマエの話になってよ、サニーとマーティンがナマエは元気かって言ってたぞ」
「おー見ての通り元気元気。二人はどう?相変わらず喧嘩ばっかしてるの?」
「まーなー。いっつもそれをなだめる俺の身にもなれっつーの」

そうは言っても兄弟の話をするコニーの表情は優しげで楽しそうで、相変わらず家では良いお兄ちゃんしてるんだろうなぁと微笑ましくなった。学校ではライナーやジャンにからかわれたり遊ばれたりしてみんなの弟分みたいなコニーだけど、家に帰ればちゃんと兄弟の面倒を見ているし遊んであげたりしているのを知ってる。

「二人とも最近ナマエに会ってないから久しぶりに会いたいって言ってたぞ」

サニーとマーティンに最後に会ったのはいつだったか。三ヶ月程前、お母さんに煮物を作りすぎちゃったからスプリンガーさんちにおすそわけに行って来てちょうだいと言われて家を訪ねた時だったか。煮物を抱えて訪れた私を、二人はきゃあきゃあとはしゃぎながら出迎えてくれた。毎回顔を合わせる度にナマエちゃんナマエちゃんと懐いてくれるのは素直に嬉しいし可愛いなぁと思う。

「今度コニーの家行っていい?私も久しぶりに二人に会いたくなってきちゃった」
「おー遠慮すんなよ。母ちゃんもたまにはナマエ連れてこいって言ってたしな」

おにぎりを飲み込んでからにかっと笑ったその笑顔はいつ見ても安心する。無邪気で裏表がなくて素直なコニーらしい。
母ちゃんかぁ…コニーはお母さん似だよなぁなんてぼんやり思ってからそう言えば、とふとコニーの家でよくご馳走になる食べ物のことを思い出した。

「おばさんの作ったホットケーキ食べたい!」
「はぁ?ホットケーキぃ?」

突然声を張り上げた私にコニーは目を丸くした。

「ホットケーキなんて誰が作っても一緒じゃね?」
「分かってないなぁコニー君。君のお母さんの作るホットケーキはふわふわでしっとりしててすっごく美味しいんだよ」
「ふーん…?」

コニーは大げさだなこいつ、とかよく分からない、といった表情をした。
お店に出せるくらい美味しいそれをいつでも食べられる君は幸せ者だぞ、と少し羨ましく思う。
あぁ、思い出したら今すぐにでもおばさんが作ったホットケーキを食べたくなってきた。残念なことに今私の口の中にあるのはちょっと酸っぱいプチトマトだ。もちろんプチトマトも好きだけれど。

「母ちゃんナマエのこと気に入ってるし言えばすぐ作ってくれんじゃねーの?」

おばさんは会う度に「ナマエちゃん美人になったねぇ」とか「うちのホットケーキをこんな美味しそうに食べるのはナマエちゃんくらいだから作りがいがあるよ」とか言って昔から可愛がってくれている。
そう言えばこの前、煮物を持って行った時に「ナマエちゃん、前に男の子と歩いてたの見たよ。彼氏かい?」と聞かれたのを思い出した。記憶を手繰り寄せてみたらそれは多分たまたま帰りが一緒だったジャンのことで、違いますただの友達ですと否定したらなんだ違うのかいと笑っていたっけ。彼氏は欲しいけどなかなか出来ないんですと嘆いたら「じゃあうちのバカ息子はどう?」なんて冗談混じりで言われて、コニーが彼氏なんて想像つかないです、だよねぇ、なんて二人して大笑いしたんだった。
彼氏ねぇ。花の女子高生なわけだしやっぱり欲しいなとは思うけど、そう簡単にいく話でもないしなぁ。好きな人もいないし。

「コニーは好きな人とかいないの?」

ふと疑問に思ったことを聞いてみる。付き合いはそれなりに長いけど、今までそういう話はあんまりしてこなかったな、そう言えば。
コニーは何だ急に、と不思議そうな顔をしてから視線を宙にやってしばらく考えるような素振りをした後口を開いた。

「いねぇな」
「何で考えたの」
「いやもしかしたらいるかもと思ったけどやっぱいなかった」
「何それ」

考えたら好きな人が出来るわけでもないでしょうに。でもそのちょっとズレてるところがコニーらしいなとおかしくなってしまう。

「あーあ、彼氏欲しいな」
「俺に言うなっての」
「誰か良い人いない?」
「うーん…エレンかジャンかアルミンかマルコかライナーかベルトルト」
「それ私も知ってる人ばっかじゃん…。もっとこう、年上の大人っぽい人」
「ピクシス校長とかか?」
「……それは大人すぎ」

冗談で言ってるのか本気で言ってるのか分からないその発言に脱力した。いやコニーのことだから多分本気なんだろうな。

「あーあ、このまま結婚出来なかったらどうしよう」

はぁ、と大きく溜め息を吐きながら嘆いた。彼氏どころか結婚なんてぶっ飛んでるなと自分でも思うけど、数十年後、未だ独り身の自分自身を想像したら途端に悲しくなってくる。
別に返答が欲しかったわけでもないただの独り言だったけれど、コニーはまた何か考えた後に至極真面目な表情で言ってのけた。

「そん時はもらってやる」
「……え。コニーが?」
「おう」
「……コニーが私をもらってくれるの?」
「?だからそう言ってんだろ?」

首を傾げてまたもや不思議そうな顔をされてしまっては黙り込むしかなかった。自分の言ってる意味わかってるのかな。

「ナマエが嫁に来ても今までとあんま変わんねー気もするけどなー」

…どうやらちゃんと分かっているらしい。それなのに甘い雰囲気なんてこれっぽっちもなくて普段通りの様子に気が抜けるのと同時に吹き出しそうになった。このゆるい感じが私たちらしい。

「じゃあもしそうなった時はよろしくね」
「おー」

歯を見せて笑ったコニーの笑顔を見つめながら、もしそうなったらウェディングケーキはおばさんのホットケーキがいいなぁ、なんてどこかズレたことを思った。



いつかの未来





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