彼氏が浮気をしていた。
これで一体何回目だろう。
一つ年上なだけのくせに何を調子に乗っているのか。そしてどうして私はそれを毎回許しているのか。好きだから、っていうのはちょっと違う気がする。もちろん好きじゃなきゃ付き合ったりはしないけど、なんていうかそれだけじゃなくて…そう、惰性だ。もう文句を言うのも喧嘩をするのも面倒くさい。別れ話をするのだって。高校生でこれはまずいんじゃないか、将来ダメ男と結婚して修羅場を見るんじゃないかと危惧するけれどそんなことを考えるのさえ面倒くさい。
はぁ、と大きく溜め息を吐くと隣りの男も溜め息を吐いた。その反応に苛立ちが募る。

「またか」

呆れたようにそう言った奴はやれやれと首を振った。どうして私が悪いみたいな反応をされなきゃいけないの。

「まただよ」
「奴もお前も懲りないな。何で未だに付き合ってるんだ。別れればいいだろう」
「じゃあライナーが話つけて来てよ」
「何で俺が…」
「もう何もかも面倒くさいの」

ただのクラスメイトのライナーはいつもこうして私の愚痴を聞いてくれる。
きっかけはあいつが最初に浮気をした時、泣いているところを見られたから。泣く、なんて行為はその最初の一度だけだったけど。
泣きながらふざけんな、とか殺してやる、とかまくし立てる私をライナーは同情の言葉を投げかけるでもなく例え相手が悪くても殺すなんて言うなと怒るでもなくただ黙って私の文句を聞いていた。
そのおかげで少しは心が晴れた気はするけれど何の解決にもなってはいなかった。次の日奴を問い詰めたらだから?と悪びれもせず言われた台詞。根っからのクズ男だ。そこで別れを切り出せば良かったもののどうして未だズルズルと続いているのか分からない。もしかしたら付き合っていると思っているのは私だけかもしれないと思ったけれど、時々、気まぐれに奴から送られてくるあっさりとした愛の言葉が並んだ無機質な文字列と、学校で会った時ごく自然に、何事もなかったかのように笑顔で話し掛けてくるその無神経さが私たちを繋ぎとめている。そんな細い線、断ち切ってしまえば楽なのに。

「……俺にしておけ」
「…は?」
「俺は浮気なんかしないしナマエを悲しませたりしない」

思わず目を丸くしながらライナーを凝視すると目を逸らされた。耳や頬は赤くなっている。その図体でもじもじしないでほしい、面白いから。

「何それ、告白?」
「こっ…!ま、まぁそんなところだ」
「ふーん。面倒くさい」
「面倒くさいはないだろう…」

私の物言いにがっくりと項垂れたライナーは落ち込んでしまったようで、なんだかちょっとだけ罪悪感に苛まれた。いつも愚痴や文句を聞いてくれたわけだしこの仕打ちはさすがに酷いかもしれない。

「私のこと好きなの?」
「……あぁ」
「なんで?だから今まで話聞いてくれてたの?」
「…最初にお前が泣いてるのを見つけたのはたまたまだ。それから話を聞いてるうちにそんな関係を続けているお前らに腹が立ってきて、お前が不憫に思えて、だんだんそれだけじゃなくなってきて…。まぁ…そんな感じだ」
「……ライナーはクリスタが好きなんだと思ってた」
「く、クリスタはその…憧れ、だな」
「じゃあもしクリスタがライナーのこと好きって言ったらどうするの?」
「どうもしない。俺はお前が好きだと言ってるんだ」

体の向きを私の方に向けて、ちょっと怒ったように言ったライナーのその台詞に少しだけ、ほんの少しだけドキドキしてしまったのは仕方がない。他人からそんなに真っ直ぐ愛情を向けられることなんて初めてかもしれない。だからと言ってほだされたとか、流されたとか、そんなことは決してない。そろそろ区切りをつけなきゃいけない時だったんだ。真剣な顔をして私を見つめている目の前のこの男は私を悲しませないと言った。信じてみようじゃないか。上から目線かもしれないけれど、だってライナー自身が言ったんだ、私のことが好きだって。それなら私もそれ相応に向き合おう。今まで愚痴に付き合ってくれた礼も含めて。

「好きになってみようかな」
「え、」
「今まで散々だったから、今度はライナーに幸せにしてもらう」
「い、いいのか…?」
「なんでそこでヘタレになるの」

くすくす笑う私を見てライナーは驚きながらも顔を赤くしてきらきらした目で私を見た。だからそれやめて、面白いから。

私たちの未来は明るい、と思う。



愛に飢えた獣





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