新兵勧誘式の後、新たに調査兵団に入団した私たちは食堂で夕飯を取っていた。
同じテーブルにはアルミン、ジャン、ライナー、ベルトルトがいて、みんなあまり顔色は優れず疲れているようだった。
はっきり言って勧誘式でのエルヴィン団長の演説には一度決意した心が揺らぎそうになった。
まずエレンの家の地下室の話。
この話が本当なら、人類は100年に亘る巨人の支配から脱脚できる手掛かりを掴めるかもしれない、らしい。
だけどそのためにはウォール・マリアを奪還しなければならないし、マリアに大部隊を送るには相当の犠牲者と20年の歳月が必要になること。
気が遠くなるような話だった。

それから、憲兵団に入るのかと思っていた成績上位10名のほとんどが調査兵団に入ったことにも驚いた。
それだけトロスト区での出来事は私たち104期生に大きすぎる影響をもたらした。後から考えると夢だったのかと思うほど色々なことが起こりすぎて、未だに頭がついていかない部分もある。夢ならどれだけ良かったか。だけど紛れもない現実で、今こうして生きている。
ぼんやりと考えていたら周りのみんなはいつの間にか食事を終えていて、慌てて手付かずだったパンを半分ちぎって口に押し込んだ。

「急いで食べなくても大丈夫だよ」

隣りに座っているアルミンが、むぐむぐと口にパンを詰め込む私を見て苦笑しながらもそう言ってくれたのでうん、と頷いてから少しだけ咀嚼するスピードを落とす。

「調査兵団に入っても食事は変わらずか」

ライナーがやれやれと言った様子で呟く。調査兵団に入って初めての夕飯は、訓練兵の時と変わらない、少し固いパンと具もまともに入っていない味の薄いスープだった。

「仕方ないよ。どこも食料不足なのは変わらないし」
「調査兵団に入るからには肉の一つや二つ出てもいいと思うんだがな」

アルミンが宥めるように言い、ジャンが頬杖をつきながら皮肉っぽくぼやいた。
あれだけ憲兵団に入ると豪語していたジャンが調査兵団に入ったことには驚いた。トロスト区での出来事が、マルコの死が、ジャンの調査兵団入団を決意させたんだと思う。もちろんそれをジャン自身が言うことはなかったし、どうしてなんて聞くつもりもないけれど。

「それにしても…ライナーにベルトルト、お前らまで調査兵団に入るとは思わなかったぞ」
「ああ、そうだな…。だが俺もお前が調査兵団に入るとは思わなかったぞ、ジャン」
「…本当に、何でこうなっちまったんだろうな…」

何でこうなったのか。
それは元を辿ればあの超大型巨人が壁を破壊したからで、あの巨人が現れなければ壁は壊されず、ジャンも、ライナーも、ベルトルトも、今頃は内地の憲兵団の食堂で夕飯を食べていたかもしれない。
あの巨人には知性がある。
どうして、何のために壁を壊したんだろう。
考えてみたって私には到底計り知れない。

「ナマエ、さっきからぼーっとしてるけど大丈夫?」

また考え込んでいたら手が止まっていたらしく、アルミンが心配そうに覗き込んできた。

「あ、うん、大丈夫。早く食べちゃうね」
「お前は元々調査兵団志望だったろ、ナマエ。今更怖気付いたか?」

いつもならにやりと意地の悪い表情で言われそうなジャンのその言葉にはからかっているような空気はなくて、ただ真面目にそう問い掛けられて少しだけ驚いた。

「そりゃ今だって怖いことは怖いよ。ただ…どうして壁は壊されたのかなって」
「どうしてだ?そんなのはこっちが聞きてぇよ。あの超大型巨人とやらをとっ捕まえて聞いてみりゃ分かるかもしれねぇけどな」
「捕まえるってなると捕獲用の網とか杭とか、すごくたくさん必要になりそうだね」
「…それは真面目なボケなのか?」
「えーと…この重苦しい空気を和ませようと思ったんだけど…」
「笑わせようとしたのか。全然面白くないけどな」
「ひどい…」

心底呆れたと言わんばかりの視線を向けられながらジャンに言われた辛辣な言葉には少しめげそうになった。

「ナマエはそれでいいと思うぞ。皆が皆、滅入ってたってどうにもならん。なぁベルトルト」
「えっ。う、うん…」

いきなり話を振られたベルトルトはびくりと体を揺らした。
そう言えばベルトルトとは解散式の夜、お互い違う兵団に行くからと、
まるでこれで最後かのような励まし合いをしたんだった。
今はこうして結局同じ調査兵団として頑張って行こうとしているからそれを思い出すとなんだか少しだけ気恥ずかしい。
でもこう言うのもなんだけど、最初は調査兵団に入る予定はなかったんであろうジャン、ライナー、ベルトルトといった頼りになる人たちが一緒でどこか安心している自分もいた。

「正直な話ね…ライナーたちも調査兵団に入ってすごく心強いよ」
「急にどうした?」
「頼りになる同期が一緒で良かったなって」
「まぁ頼りにされてることに悪い気はしないが、壁外では訓練兵の時のようにはいかないからな。すぐに助けてやれるとも限らないぞ」
「それは分かってる、大丈夫。気持ち的にね、頼もしいなって」
「気緩めるんじゃねぇぞ」
「分かってるよ」

いつものようなからかいと忠告が混ざったような意味合いを含んだジャンの言葉に少し唇を尖らせながら返した。
ジャンから視線を外すと、斜め向かいに座っているベルトルトと一瞬目が合ったと思ったらすぐに焦ったように逸らされた。懲りずにじっと見つめていると、ちらりと様子を伺うようにして私を見た彼と再び目が合ったから笑顔を向けてみる。

「どうかした?ベルトルト」
「え、いや…何でもないよ」

私が声を掛けてテーブルのみんなの注目がベルトルトに集まると、彼は慌てたように片手を胸の前で振って縮こまった。

「ベルトルト、ナマエと同じ調査兵団に入ったってことはまたこれからナマエに付き纏われるってことだぞ」
「う、うん…そうだね」

ニヤリと笑いながらそう言ったライナーの言葉にベルトルトはちょっと困ったように答えた。
付き纏うだなんて失礼な。まぁでもあながち間違ってもない気がするのでそこには触れず、今後の意気込みを語ってみた。

「これからもベルトルトの笑顔を見るために頑張ろうと思うよ!」
「ほら見ろ、やる気満々だ」
「迷惑だったらはっきり言った方がいいぞベルトルト。こいつは空気が読めないからな」
「ジャンひどい!アルミン、ジャンが苛める」
「まぁ…頑張れとしか…」

困った顔をして曖昧に笑ったアルミンにさえ見捨てられてしまって、むすっと頬を膨らませる。
そのまま勢い良く手元のパンをかじったらライナーが吹き出した。なんだ。

「あーナマエ、むくれるか食べるかどっちかにしろ。顔が面白いことになってるぞ」
「間抜け面だな」
「二人とも…本人は怒ってるつもりなんだから察してあげなきゃ」
「もー!三人とも馬鹿にしてるでしょ!」

女の子に向かって顔が面白いとか間抜け面とか言ってからかうなんてひどいと思う。まぁいつものことだし今更そんなに気にするわけでもないけれど。

「ベルトルトも何か言ってやれ」
「えぇ?えーと…確かに変な顔だったかも…」
「…ベルトルトが一番ひどい」

ジト目でベルトルトを睨んで更にむくれてみたけれど、なんだかだんだん馬鹿馬鹿しくなってきてぷっと吹き出したらあわあわと狼狽えていたベルトルトも安心したように笑った。早速ベルトルトの笑顔頂きました、とにやにやしていたらジャンに気持ち悪いぞなんて言われたけど。
調査兵団なんて先が見えないし自分で選んだとはいえ正直不安しかないけれど、こうやってくだらないことで笑い合えるみんなと一緒なら頑張れそうな気がする、多分。



変わる環境と変わらない日常

「へへへ、早速ベルトルトの笑顔が見れるなんて幸先良いなぁ」
「この際ベルトルトの笑顔の肖像画でも描いて持ち歩いたらどうだ?」
「変な冗談はやめてよライナー…」
「それいいかも!」
「!?」






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