アルミンに座学でわからなかったところを教えてもらった後、つい話し込んでしまって講義室に残っていたら、資料を取りに来たらしい教官に講義で使ったものを資料室まで運んでおいてほしいと頼まれてしまった。
普通は面倒くさいと思ってしまうだろう頼まれ事にもアルミンは分かりました、と素直に引き受けていた。真面目ちゃんだなぁ。これがジャンとかコニーだったらぶーぶー文句を言ってる気がする。

昼食を取った後、二人並んで資料や本を抱えながら資料室にやって来た。
ちなみに今日の昼食はサシャの言っていた通りお肉の入ったスープで、決して充分とは言えない、細かく刻まれた肉の奪い合いで食堂は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。肉の力恐るべし。マルコがその有り余った力を訓練で使えばいいのにな…と困ったように笑っていたのが印象的だった。

資料室はあまり人が来ないせいか静かで少し埃っぽい。広くはない空間に資料や本が所狭しと置かれていてさっきまでいた賑やかな食堂の雰囲気とは程遠く、なんだか違う世界に迷い込んだような気分になる。

「えーと、これはあそこで、これはこっち…」

アルミンは真面目に資料を元の場所に戻し始めたので、私もやらなくちゃと一冊の本を手に取った。
何気なく取ったその本の表紙には『壁内の歴史』なんてタイトルが書かれていて、思わず笑ってしまった。その名の通り、壁の中での人類の歴史が書かれた本。

「…歴史って言っても、たった百年間のことしか書かれてないのにね」
「ん?」
「この本。百年以上前は本当に壁の外で生活してたのかな。想像がつかないよ」
「一般的にはそういうことになってるし、その辺りの詳しい内容を知ることも禁止されてるからね。でも昔はまず間違いなく壁の外で生活してたんだと思うよ。そうじゃなきゃ外の世界のことなんて知る由もないはずだから」
「アルミンは昔みたいにまだ外に行きたいと思ってる?」
「それは…うん。この目で外の世界を見てみたいっていうのは昔から変わってないよ」
「そっか」

当たり前だけど壁の外なんて今まで行ったことがないし、外の世界なんて想像がつかない。生まれた時からそうだったし一生この壁の中で暮らすことに疑問はないけれど、少しだけ、出来ることなら私も見てみたいとは思う。実際は調査兵団しか壁の外に行くことはないし難しい…というより調査兵団に入ることは考えてない私にはほぼ無理な話だろうけれど。

「…どうかしたの?」
「あ、ううん。なんでもない」

本の表紙を眺めながらぼーっと考え込んでいたらアルミンが不思議そうな顔をして私を見ていた。
さっさと片付けないと昼休みが終わっちゃう。この本をしまう場所は…うわ、本棚の一番上だ。明らかに手が届く範囲ではなくて、梯子か何かがないと届かない。

「アルミーン、これ届かないよ」
「え、あぁ、一番上か…。梯子を持ってくるしかなさそうだね」
「でももうすぐ昼休み終わっちゃうよ?あ、私がアルミンを肩車すれば届くかも!」
「…うん。それおかしいよね」
「ん?」
「肩車するにしても普通は逆だと思うんだけど…」

呆れた顔を向けて来たアルミンを見てそこであ、そうかと気付いた。
一応私は女子でアルミンは男子。一応。

「つい昔の感覚で考えてた…」
「まったくもう…」
「でもアルミンが私を持ち上げられるとは思えないけど?」
「な、出来るよ!今はモニカの方が僕より小さいんだし」
「ほーう?」

出来る出来ないとぎゃあぎゃあ言い争っていたら突然ガラ、と資料室の扉が開いた。二人して一時停止してそちらに目を向けるとライナーとベルトルトが立っていた。お、おう。

「騒がしい声が聞こえると思ったら…喧嘩でもしてたのか?モニカはともかくアルミンが大声を出すのは珍しいな」

うぐ、と声を詰まらせたアルミンは恥ずかしそうにだってモニカが…とぼそぼそ言った。私のせいにする気か。元はと言えば私のせいか。

「喧嘩の原因は何だ?」

さすがみんなの兄貴ライナー。
やれやれと一つ息を吐いた後、宥めるように私とアルミンの頭にぽんと軽く手を置いた。

「この本をしまおうと思ったんだけど、届かなくて困ってたの」

ずい、と原因の本を差し出してみせるとなんだそんなことか、とライナーは後ろにいる彼を振り返った。

「そう言う話ならベルトルトの出番だ」

ベルトルトはライナーの後ろで困ったようにして私たちを見ていたけれど、ライナーに話を振られて少し戸惑っているみたい。

「えーと、じゃあベルトルト、お願いしてもいい?」
「う、うん」

本を手渡すと、ベルトルトは一番上の棚に手を伸ばし実にあっさりと本を元の位置に戻してくれた。

「おぉ……」

さすが104期生の中でも高身長のベルトルト、私やアルミンでは到底届きそうになかった本棚にちょっと手を伸ばしただけで届いてしまうなんてすごいなと素直に感心した。
自分の背があまり高くないことにそれほど不便を感じていたわけじゃないけれど、こういう時は損だなぁと思う。やっぱり高い方がいいかも。
口を開けてアルミンと一緒になって見惚れていたら横でライナーが突然吹き出した。なんだなんだ。

「…いや、すまん。お前ら同じような顔してたぞ」
「えっ」
「喧嘩したり一緒になって間抜け面になったり仲が良いな」
「間抜け面ってひどい!」
「別に仲が良いわけじゃないよ…」
「えー私たち仲良しでしょ?」

仲良しじゃない…と不満そうに、頑なに否定するアルミンのほっぺたをつまんでいたら昼休み終了の鐘の音が窓の外から聞こえた。
次は確か技巧術だった気がする。

「ほら、手伝うからさっさと終わらせるぞ」
「ありがとう」
「僕も手伝うよ」
「ありがと、ベルトルト」

長身の二人が加わってくれたおかげで片付けはすんなり終わった。
遅刻しないで済みそうだと隣りでほっとしていたアルミンは、やっぱり真面目ちゃんだなぁなんて思った。



憧れ





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