特にすることもないし、たまには散歩でもしようかとウォール・マリアの壁の近く、シガンシナ区の街の外れにやって来た僕たちは、他愛ない話をしながらぶらぶらとあてもなく歩いていた。
エレンは昨日母さんが作ったスープはちょっとしょっぱかったとか愚痴を零し、ミカサはエレンもたまにはおばさんの手伝いをするべき、なんて忠告している。
僕はそんないつもの二人の会話を聞き流しつつ、前方の大きな木の下に見慣れた人が座っているのを見つけた。
モニカだ。
下を向いて動かないところを見ると寝ているのかもしれない。まだ後ろで何か言い合っている二人は気付いていないらしい。
そーっと足音を立てないように近付いて、目の前までやって来た。やっぱり寝ている。
しゃがみ込んで顔をじっと眺めてみる。寝てる間は静かだし僕のことからかったりしないのになぁ。何でこの目が開くといじめっ子になっちゃうんだろう。

「ん?そいつモニカか?」

少し遅れてやって来たエレンが僕の後ろからモニカの顔を覗き込んだ。

「うん」
「何でこんな所で寝てるんだ?」
「さぁ…」

すやすや眠るモニカは起きそうになくて、幸せそうな顔をして何やらむにゃむにゃ言っている。眠ってると別人みたいだなぁなんて思った。
日頃の憂さ晴らしってわけではないけれど、人差し指を伸ばして白いほっぺたをつん、とつついてみる。

「んん〜…」

慌てて指を引っ込めた。
起きたかと思ったけど眉を寄せて唸ったきりまだ起きない。

「こんな所で寝てたら風邪を引く」

ミカサが静かにそう言う。
確かにちょっと肌寒いし、このままここで寝ていたら風邪を引いてしまうかもしれない。

「起こすか?」

エレンがモニカの肩に触れようと手を伸ばした瞬間、はっ!と一瞬びくついてモニカの目がぱっちり開かれた。

「うわっ!?」
「んん?」

辺りをきょろきょろと見渡したモニカは、まだ寝呆けているのか目をぱちぱちして僕たちを凝視している。

「…寝てた」
「びっくりさせんなよ!」

焦ったエレンにそう言われたモニカは、寝起きに怒られるなんて理不尽、と口を尖らせた。
こんな所で寝ているモニカもどうかと思うけれど。

「仲良し三人組が揃ってこんな所まで来てどうしたの?」
「ただの散歩だよ」
「ふーん」

ふあ、と大きなあくびをして体を上に伸ばしたモニカはよく寝た〜なんて呑気に言っている。

「家で寝ろよ」
「ここ好きなの」
「なんにもねぇじゃん」
「それがいいんだよー。わかってないなぁエレンは」

くすくす笑いながらモニカにほっぺたをつんつんされてエレンはやめろよ、なんて言っている。
モニカは結構誰に対してもこうだ。ただ僕にだけそれが多すぎるというだけで。それが僕にとっては問題なんだけど。

「あ」
「?なんだよ」
「夢を見てた気がする。何だっけ…確か小さいねずみにほっぺたをつっつかれる夢」
「それは多分アルミン。寝ているモニカのほっぺたをつついていたから」
「み、ミカサ!」

言っちゃだめ!と焦る僕なんてお構いなしに淡々と告げたミカサの言葉に、モニカは一度ぱちりと瞬きをした。
そして口が大きく弧を描いてにんまり笑う。すごく、嫌な予感がする。

「アルミーン!」
「な、なに…うわぁっ!」

腕を伸ばしたモニカは僕の首に手を回して勢い良く引っぱった。そのまま横に倒れ込み、短い草の生えた地面に二人してごろりと転がる。

「お返しだー!」
「お、お返しにしては差がありすぎるよ!」

僕の文句にも構わずモニカは僕の首に手を回したままあははと口を開けて楽しそうに笑っていて、そんな顔を見たらなんだか怒るのも馬鹿馬鹿しくなってきて気が抜けた。
じたばたと抵抗していたのをやめたらあれ、観念したの?とでも言いたげに丸い瞳が不思議そうに見つめてくる。

「お前ら本当に仲良いな」

僕たちが転がっている隣りに座ってエレンが大きな目で見下ろしてきた。ミカサもその隣りに同じように座って僕たちを見ている。
この光景を見て仲が良いなんてエレンは一体何を見てるんだろう。

「でしょー?」
「これが仲良いように見えるのエレン…」
「違うのか?」

もういいや、と弁解をするのも面倒になって諦めの意味を込めてはぁと深く息を吐いたら、モニカは可笑しそうにくすくすと笑っていた。


幸せな夢を見た






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