兵士になってから数日が経ち、ここでの生活にもだいぶ慣れて来た。
立体機動装置を扱うための適性を図る姿勢制御を行った後はいよいよ本格的に装置のしくみや扱い方を学び、実際に使用して訓練を行った。
それから対人格闘や馬術、体を使うことばかりではなく座学や技巧術なども一通り受けた。
どれも厳しいし大変だし、生半可な気持ちでは続けていけない。現に開拓地に戻っていく人も何人かいた。
そんな厳しい訓練生活の中で私は日々の疲れを癒す方法を見出した。癒しというか、息抜きというか、あるいは憂さ晴らしというか。



まだしっかり開かない瞼を必死に持ち上げあくびを噛み殺して、朝から賑やかな食堂に入る。
ちょっと寝坊してしまったけれど朝食を食いっぱぐれることはなかったみたいだと安心する。
配膳係から食事を受け取ってどこに座ろうかな、と食堂を見渡すとちょうど幼なじみ三人組の側が空いていたので近付いた。

「おはよー」
「おう」
「おはよう」
「お、おはよう」

声をかけるとエレンはパンをもぐもぐしながら言い、ミカサはそんなエレンに何か言いたげな視線をやりつつも挨拶を返してくれて、アルミンは控えめにぼそぼそ言った。
エレンとミカサの向かいに座っていたアルミンの隣りの席に座る。

「お邪魔してもいい?」
「あ、うん、どうぞ」
「眠そうだな」
「んー朝は苦手なの」
「モニカは声をかけてもなかなか起きないからもう起こすのは諦めた」
「あららミカサに見捨てられちゃった」

苦く笑ってからスプーンを手に取りスープを口に含むと既に生温かったけど寝坊した私の自業自得だ。起きたばかりだというのもあってなかなか手が進まない。

「ちゃんと食わねえとぶっ倒れるぞ」

お前小せぇんだから、とエレンが付け足す。
小さいと言ってもそこまで心配される程ではないはずだ。既に170センチ近くあるエレンからしてみたら充分小さいのかもしれないけれど。
なんだろう、再会してからエレンは何かと私のことを気にかけてくれている気がする。
二年前と背が少ししか成長していない私を気遣ってくれているのか、それとも昔馴染みだからかなとぼんやり思う。
のろのろとスプーンを動かしていたら既に食事を終えたミカサが早く食べないと訓練が始まる、と忠告した。
んーと生返事を返していると隣りのアルミンが私をじっと見ていることに気が付く。

「なに?アルミン」
「えっ!な、何でもないよ」

アルミンは相変わらずだ。
私が話しかけたりちょっと触ったりすると大げさに反応する。
そんな風に警戒されていい気分とは言えないけれど自分のせいなのでまぁ仕方がない。むしろそんな反応をされると悪戯心がくすぐられるというか余計構ってしまいたくなるわけで。
手付かずだったパンを半分千切って、おもむろにアルミンの口の中へぎゅう、と押し付けた。

「むぐ!?」
「アルミン細いんだからもっと食べなきゃ駄目だよ」

無理矢理パンを口に突っ込まれたアルミンは慌ててパンを掴んで抗議してきた。

「ちょっ…モニカ!いきなり何するのさ!」
「あんまり食欲ないしそのパンあげるよ」
「そうじゃなくて…!」

まだ何か文句を言おうとしていたアルミンの声は、突然遠くから走って来た声に掻き消される。

「モニカーーー!!」
「え、わぁ!?」
「アルミンにあげるなら私に下さいよ!」

今の光景を目ざとく見ていたらしいサシャが私の肩を掴んでがくがく揺さぶる。あ、どうしようスープが出そう。

「サシャ…!見てたの?」
「モニカはいつも朝はあんまり食べてないみたいなので狙ってます」

見られてた。というか狙われてた。

「わかったわかった次はサシャにあげるから!揺するのやめて!出る!」
「絶対ですよ!?」
「わかったから!」

やっと手を離してくれたのでほっと息を吐く。出なくて良かった。
残りの半分のパンはさすがに自分で食べないと訓練の時に体が持たないからあげるわけにはいかない。
ちらりとアルミンに目を向けたサシャはふふふ、と怪しい笑顔を作ってからアルミンが手に持っているパンを指差した。

「アルミン、それくれてもいいんですよ」
「え、うーん…でもちょっとかじっちゃったよ」
「気にしません!」

パンはパンです!とでも言いたげなサシャは目を輝かせて彼がパンをくれるのを待っている。
しかし予想に反してアルミンは少し何かを考えるような素振りを見せた後、パンをぱくり、と口に含んだ。

「あ、ああーーー!?」

悲痛な声で叫ぶサシャなんてお構い無しにアルミンはもぐもぐと咀嚼して最後にごくんと飲み込んだ。

「あの渡し方はどうかと思うけど、これは僕が貰ったものだからね。食べ物は貴重だし、今日の訓練内容は立体機動と対人格闘術っていう特別体力を消費する二つだ。食べられる時に食べておかないといつ倒れるかも分からない。好機は自分のものにしないと。ここは食うか食われるかの生存戦争なんだよ、サシャ」

涙目になっているサシャに言い聞かせるようにつらつらと喋るアルミンに少し驚く。私の知ってるアルミンだったらじゃあどうぞ、とパンを渡すのかもなと思っていた。彼が多少は図太く成長したってことなんだろうか。

「やるなアルミン」

エレンが楽しそうににやりと笑うとアルミンは少し照れたように微笑んだ。

「まさか私のパン半分でここでの生き方を学ぶことになるとは思わなかった」
「と言うより元はモニカのなんだから自分で食べなよ…」
「だってアルミン細いから心配になっちゃって」
「そんなのただの口実で、起き抜けで自分の食欲がないだけだろ…」
「ばれた?」

あはは、と笑ったらじとりとした視線を向けられた。
あ、なんか懐かしい。
私にはあんまり遠慮しないとこ、昔と変わらないな。



パン半分





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