エレンとアルミンと別れてミカサと一緒に女子寮に入り、自分の寝床を確認したらベッドの一段目、窓側の端だった。端っこは落ち着くし一段目だとはしごを登らなくていいから楽で良かった、なんてぼんやり思っていると、ミカサから頼みがある、と声を掛けられた。



「本当にいいの?」

外に椅子を持ってきて、そこに座ったミカサがこくりと頷く。
久しぶりに会ったばかりで申し訳ないけれど髪を切ってほしいと頼まれて、私でいいのかなと少し不安になる。

「エレンに長すぎだと言われた」

まぁそりゃ確かに立体機動の訓練で万が一ワイヤーに絡まりでもしたら大変なことになるとは思うけど、せっかく綺麗な黒髪なのになぁ。
つやつやした髪を一房すくうとさらりと手から逃げて行った。

「綺麗なのにもったいない」
「髪なんてまたすぐ伸びる」
「まぁそうなんだけど…。しょうがないか」

ミカサのことだから私が止めた所で聞かないだろうし、諦めてそっとはさみを入れる。

「それに」

じょき、と小気味良い音がして黒い髪がぱらぱらと地面に落ちていく。 なんだかいけないことをしているような罪悪感を感じた。

「モニカの髪も長くて綺麗だった」

昔は背中の真ん中辺りまであった髪は、今は肩より少し長い程度に切った。私の髪なんてミカサに比べたら特徴もないし普通だけれど、そんなことを言われて少しびっくりするのと同時にエレンのことばかり考えているのかと思っていたミカサが意外と私のことも見てくれていたんだなとちょっぴり嬉しくなった。

「…ありがと」



髪を切りながら今までの話を聞いた。
巨人が壁を壊したあの日、エレンのお母さん、カルラおばさんは家に瓦礫が落ちて逃げられなくなっている所を巨人に食べられて亡くなったこと。
ハンネスさんに助けられた後、開拓地に移り住んだこと。
グリシャおじさんの行方は分からないらしい。
エレンもミカサもアルミンも私も、あの日から…自分たちを取り巻く環境は随分と変わってしまった。



よし、こんなもんだろうかとたった今切った髪を後ろや横から眺めて長さがちぐはぐになっていないか確認する。最後に前に回ってミカサの顔を見た。相変わらず表情にあまり変化はなかったけれど髪が短くなっても美人なことには変わりない。

「うん、上出来上出来。これぐらいの長さも似合うね」
「ありがとう。助かった」
「いーえ。よし、じゃあ明日も早いしお風呂入って寝よっか」

こくりとミカサは頷いた。
ミカサには、私が今まで何をしていたのか、何故親戚の家にお世話にならなければならなかったのか、といった話は聞かれなかった。
私が自分から話すのを待ってくれているのかなと申し訳ない気持ちになりつつも少しだけ安心する。
別に隠すようなことでもないけれど
、まだなんとなく話す気にはならなかった。



翌日、目付きの悪い男子に睨まれたような気がして、首を傾げて笑ってみたら素っ気なく目を逸らされた。
話したこともないのに失礼な奴だなと思っていたら隣りにいたそばかすの、こっちは優しそうな男子が困ったように笑って私を見た。
後にミカサに憧れを抱いている目付きの悪い男子…ジャンと言うらしい、が、ミカサの髪を切ってしまったのがモニカだと聞いて逆恨みしているだけなんだ、とそばかすの男子…マルコが教えてくれた。そんな理不尽な。
ジャンはエレンのことも嫌いらしい。そう言えばここに来た初日にエレンとジャンが険悪な雰囲気になりかけていたっけ。
まぁ人間誰しも合う合わないはあると思うけど、今後一つ屋根の下どころか同じ部屋で寝食を共にするわけだし仲良くしたらいいのにな。



あの日から





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