※ラストネームは固定



兵士に志願し、第104期訓練兵としての一日目は教官による通過儀礼と宿舎の割り当て、毎日の生活や訓練の時に使用する各施設の説明を受けて終了した。
明日から本格的な訓練が始まるらしい。
僕なんかに出来るのか、兵士としての務めが果たせるのか、不安ではあったけどここまで来たらもうやるしかない。死に物狂いでやってやろうと腹を括った。

初日からエレンが同期の一人と一悶着起こしそうな雰囲気になってヒヤヒヤしたものの、何とか無事夕飯を済ませて食堂から寮に向かう途中でモニカがいる、と静かに呟いたミカサの一言に一瞬時が止まった。
え?と聞き返すとミカサはもう一度モニカがいる、と何でもないことのように淡々と言った。

「モニカ?モニカってあのモニカか?」

エレンにも覚えがあるらしい。
久しく聞いていなかったその名前に体がびくりと反応してしまう。
どこだ?と問い掛けたエレンにミカサはあそこ、と少し離れた前方を指差した。そっちに向かったエレンはどうやら話しかけに行くつもりらしい。

「ちょ、ちょっと待ってエレン!」

僕の制止も虚しくエレンはずんずん歩を進める。当然のようにその後について行くミカサ。
仕方なく僕もその背を追う。

「よう。お前モニカか?」

そう声を掛けられて振り返ったのは、やっぱりモニカだった。
突然声を掛けられて少しびっくりした様子だったけど、色素の薄い茶色い髪や若葉のような明るい緑色の目は昔と変わらない。長かった髪は肩ぐらいで切り揃えられていて、最後に会った時と比べると少しだけ大人っぽくなっていた。

「エレン!久しぶりだね」
「お前生きてたのか」
「なんとかねー。そっちはどう?元気にやってた?」
「…まぁな。モニカも兵士になったんだな」
「まぁ色々あって。エレン、変わんないね」

くすくす笑ったモニカにエレンはそうか?と不思議そうに返した。

「ミカサも久しぶり」
「久しぶり」
「元気そうだね。ミカサは美人になったね〜」
「…モニカ、あの後どこに行っていたの」

ミカサが心配そうに尋ねる。
モニカと最後に会ったのはあの時…二年前の壁が壊された日だった。
それから行方も消息も分からなくなっていて、まさかこんな風に兵士になって再会するとは思ってもみなかった。
少しの間何かを考えるようにしていたモニカは、親戚の家にお世話になってたんだ、と笑った。
そしてエレンとミカサの後ろで隠れるように三人の会話を聞いていた僕を覗き込むようにして体を傾けた。

「そっちはアルミン?」

声を掛けられて思わずびくりと体が揺れる。一瞬目を丸くしたモニカは面白そうに笑った。

「ひ、久しぶり」
「やだな、そんなに怯えないでよ。昔からかってたこと気にしてる?」
「えっと…」

モニカ・アレンス。
シガンシナ区にいた時に近所に住んでいた女の子。
モニカのことは少し苦手だった。
昔から僕を見掛けるとからかったり、ちょっかいを出してきたりと、あまりいい思い出はない。
アルミンが可愛いからつい構いたくなるんだよ、なんてモニカは言っていたけどからかわれる僕の方としては可愛いなんて言われてもちっとも嬉しくはないし、いつもむきになって反抗していた。
悪い子ではないけれどどちらかと言うと苦手。
そんな印象だった。

「アルミンはあんまり変わらないね」
「そうかな…」
「相変わらず可愛いねー」

にっこり笑いながらそう言って近付いてきたモニカは手を伸ばして僕の頭を撫でた。

「わ、」
「でも身長は越されちゃったか。なんか悔しい」

戸惑う僕なんかお構いなしに更にわしゃわしゃと容赦なく頭を撫でられて、髪の毛がぐちゃぐちゃになる。

「や、やめてよ…!」
「あはは。なんかこの感じ懐かしいなぁ」
「お前は相変わらずだな…」

エレンが呆れたように僕たちを見た。
ああ、この光景。
散々モニカにからかわれ続けた昔の記憶が鮮明に呼び起こされたような気がする。
そう言えば、とエレンが言葉を続けた。

「モニカ、オレたちがここにいることにあんまり驚いてないよな?」
「ん?ああ、さっきの通過儀礼でアルミンがいること知ったからね。アルミンがいるならエレンとミカサもいるんじゃないのかなって思って。後で探そうと思ってたらエレンが声かけてくれたから」
「モニカもあれパスしたのか?モニカの名前が出れば気付くと思うんだけどな」

僕の頭を掻き回していた手を止めて、さっきまでの乱雑な動作とは打って変わってぐしゃぐしゃになった髪を直すように丁寧に撫で付けながら、モニカは目を細めて薄く笑った。

「エレンとミカサもでしょ?まぁその話は追い追いね」

なんだろう。何となく変な感じがした。
以前のモニカにはなかったような、陰りとでも言うのかな、とにかくあまりいいものではないような違和感を彼女から感じた。
じっとモニカを見ていると視線に気付いたモニカは僕の頬をつんとつついて悪戯っぽく微笑む。

「改めてこれからよろしくね」
「う、うん」

モニカはおやすみ、と僕とエレンに言ってからミカサ行こう、と女子寮に向かって行った。
その後ろ姿を見送ってから、僕たちも男子寮に向かう。

思いがけない再会に戸惑い驚きはしたけれど、あれから二年経っている。
モニカも僕ももう12歳になった。
子供の頃の苦い思い出がまた繰り返されるのかと一瞬震えたけれど、もうあの頃とは違うんだ。
だけどその考えは甘かったと、後に自分の浅はかさを呪うことになるのだった。



波乱の幕開け







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