結局、希望兵科は駐屯兵団と記入して提出した。
勿論一番入れたらいいなと思うのは憲兵団だけどどう考えても私の平均的な成績では無理な話だし、かと言って調査兵団に入る勇気もない。だから一番無難な駐屯兵団を選んだ。そんな消去法のような選び方ではちゃんと誇りを持って駐屯兵になった人達に失礼だとは思ったけれど、駐屯兵団に入ったら私に出来ることを探して何か目標が出来たらいいなと思う。今はただ日々の訓練をこなすことで精一杯だけれど。






「……どうしてだろう」
「……」
「ネジが一本余った…」

手のひらに乗った一本の小さなネジがまさかここまで自分を絶望の淵に追いやり、焦らせ、苦しめるとは。ネジをじっと見つめながら呟くと、隣りの席に座っているアルミンはじとりと呆れたような視線を送ってきた。

「相変わらず装置の整備は苦手なんだね…」
「……うん」
「間違ってもそのネジが一本足りない状態の機動装置で飛ばないようにね」
「うぅ…分かってるよ」

技巧術は苦手だ。
こうやってアルミンに教えてもらいながらもう何度も機動装置の分解、組み立てをしてるっていうのにたまにこうして部品が余ったり、上手く整備出来たと思っても正常に動作しなかったりと私の技巧の腕は一向に上がらない。
大体部品が多いし組み立てる順序も守らなきゃいけないしでなかなか難しいのだ。それでも訓練兵になって立体機動装置を扱うようになり一年が経つんだからいい加減慣れてもいいんじゃないかとは思うのにどうしても上手くいかない。上手くいったことの方が少ない気もする。

「うーん…途中まではいい感じに出来てたと思うんだけどなぁ…」
「いい感じならネジは余らないよ」
「分かってるってば…。アルミンはこういうの得意だからいいよね」
「得意ってほどでもないけど…。分解してもう一回最初からやった方がいいよ」
「はーい…」

今はめ込んだばかりの部品を工具を使って分解していく。一本余ったネジはどこのネジだったのか皆目見当もつかず。
自分の駄目具合に項垂れながら作業していると、モニカ、と向かいの席から声がかかった。

「良かったらそれ、最初から一緒に組み立ててみようか。これにはちょっとしたコツがあるんだよ」
「えっ!マルコ、本当?」
「ああ。もしかしたらあんまり参考にはならないかもしれないけど」
「そんなことないよ。ありがとう!」

マルコの申し出が嬉しくて目を輝かせながらそう言うと、マルコはどういたしましてと柔らかく笑った。
待たせてしまうのも悪いので急いで分解する。分解するのは部品を外していくだけだから簡単だ。

「はい、全部分解したよ」
「よし。じゃあ順番にやっていこう」

ネジは大きさごとにまとめておいた方が分かりやすいよ、とか複雑な本体の部分よりまずはワイヤーの収納部分から組み立てていった方が分かりやすいと思う、とかアドバイスを貰いつつ、一緒に装置を組み立てていく。

「マルコ、手際が良いね」

私の横に座っているアルミンが、マルコの手元を見ながら感心したように言った。心なしか目がきらきらしていてなんだか楽しそうだ。

「こういうのは嫌いじゃないんだ。アルミンもそうだろ?」

装置の整備をするのは実は楽しみなんだ、とか掃除をして綺麗になった装置で訓練すると気持ちが良いよね、とか話しながら、話題はガスの消費量がどうとか慣性がどうとか何やら立体機動談義に切り替わりつつ盛り上がっていて微笑ましくなる。男の子ってこういうの好きそうだもんなぁ。
手元は動かしつつにやにやしながら二人を観察していたら、それに気付いたアルミンが不思議そうに首を傾げて私を見た。

「?モニカ、にこにこしてどうしたの?」
「ん?うん、二人とも楽しそうだなぁって」
「あ、ごめんモニカ、放ったらかしにして。出来た?」
「出来たよ。ネジも余らなかった!」

それが普通なんだけどね…とでも言いたげなアルミンの視線を無視して、じゃーん!と効果音付きでマルコの方に組み立てたばかりの装置を掲げると、マルコは満足気に頷いた後思わず聞き返したくなるようなことを言った。

「よし。じゃあもう一回分解しようか」
「えっ!?今組み立てたばっかりなのに?」
「モニカが自分の力で出来るようにならないと意味ないだろ?見てるから次は一人で組み立ててごらん」
「え、えぇー…」
「ちゃんと組み立てられるのは大前提として、ある程度は早さも重要だ。早く、正しく、丁寧に、が基本だよ」
「うぅ難易度高い…。マルコって実はアルミンより厳しいかも…」

ちらりとアルミンの方に視線を向けると、アルミンは苦笑いをしてから自分の装置の整備に戻ってしまった。どうやら助けてはくれないらしい。
面倒見が良くて優しいマルコの意外な一面を知ったなぁと思いつつ、再び工具を手に分解作業に取り掛かる。教えてもらったわけだし次こそは上手く出来るように頑張らなきゃ、と気合いを入れた。



早く正しく丁寧に





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