食堂で昼食を食べた後、次の訓練が始まるまでに少し時間があることだし読みかけの本でも読もうかと男子寮に向かっている途中で、訓練場の隅の木の下、涼しげな木陰に見慣れた姿を見つけた。
木に寄りかかって微動だにしていない様子を見ると寝ているのかもしれない。
そっと音を立てないように近付いて目の前までやって来ると、やっぱり寝ていた。目を閉じて規則正しいリズムで静かに呼吸を繰り返しているけれど、少しだけ眉間にしわが寄っている。嫌な夢でも見てるのかな。
しゃがみ込んで寝顔をじっと眺めてみた。寝ている間は静かだし僕のことをからかったりしないのになぁ。
そう言えば、この光景には見覚えがある。確か前にもこんなことがあったっけ…。彼女は外で昼寝をするのが趣味なんだろうか。
前と今とじゃだいぶ環境が変わってしまったけれど、あの時モニカは幸せそうな顔をして眠っていたと思う。でも今目の前で眠りこけている表情は幸せそうとは言えなくて、なんとなく寂しいような気分になった。大人になった、ってことなんだろうか。勿論年齢的にはまだ子供なんだけれど。
何も知らない子供でいられたあの頃から、否が応でも大人にならなければならなかった。
あの日から、色々なことが変わった。変わらざるを得なかった。それがこの世界にとって良い変化とは言えなかったけれど、僕たちにとってはどうだろうか。もし壁が壊されなかったら、あのままシガンシナで平穏な暮らしを送っていただろうか。もしかしたら兵士にはならなかったかもしれない。エレンは両親に止められても調査兵団になることを貫き通していたかもしれないけど。僕も外の世界への憧れが諦められなくて、結局は兵士になっていただろうか。
物思いに考えていたらモニカが少し身じろぎをした。起きるかな、と思ったけれどそのまままた寝入ってしまう。
人差し指を伸ばして頬をつついてみた。
体が冷えているのか少し冷たい。

「ん〜…」

唸ってはいるけど目は開かない。
休憩時間とはいえこんな所で寝ていたら風邪を引いてしまうかもしれないし、気付けばあと十分程で次の訓練が始まってしまう。

「モニカ」

名前を呼びながら肩を少し揺すると薄く瞼が開いた。良かった、起きたみたいだ。ミカサがこの前、モニカは寝起きが悪いと言っていたからほっと安心する。

「んん…?」
「こんな所で寝てたら風邪引くよ」
「…アルミン?」

ぼんやりした表情で僕を見上げたモニカはまだ完全には覚醒していないらしく、眠たそうに目を擦りながら一つ大きなあくびをした。

「うーん…なんだか夢を見てた気がする」
「…ねずみが出てくる夢?」
「なんでわかったの!?」
「ははは…」

曖昧に笑ってみせるとモニカは「そう言えば前にもこんなことがあったような…」と呟いた。どうやらモニカもシガンシナでの日のことを覚えているらしい。

「モニカは外で昼寝をするのが好きなの?」
「好きって言うか…夜なかなか寝付けなくて。いつも昼頃に眠くなっちゃうんだよね」

なるほど。
だからモニカは朝に弱いんだ。
もう一度あくびをしたモニカはまだ眠そうで、こんな様子じゃ次の立体機動の訓練でヘマをしてしまうんじゃないかと余計な心配をしてしまう。

「夜眠れないならホットミルクとかカモミールティーを飲むと良いって聞いたことがあるよ。試してみたらどうかな」
「そうなんだ。アルミン付き合ってくれる?」
「え?」
「だって夜の食堂で一人で飲んでたって楽しくないじゃない」
「楽しいとかそういうことじゃないと思うけど…。まぁ僕でよければ」

そう言うと、アルミンが淹れてくれるの楽しみだなぁなんてにこにこ笑いながら勝手なことを言っていた。まぁそれくらいは構わないけれど。

「ほら、そろそろ次の訓練が始まるから準備しないと」
「うん。…なんかさ、アルミン変わったよね」
「え?」
「前までは私に対してあんなに怯えてたのに、今じゃ普通に話してくれるしこうやって世話まで焼いてくれるし」

にこにことやけに嬉しそうに笑いながらそんなことを言われて思わずびっくりしてしまった。確かにモニカと僕の関係はここに来た時と比べて変わって来ていると思う。それが良いのか悪いのか、よく分からないけれど。いや、悪くはない、のかな。

「まぁ…嫌でも慣れるよね」
「嫌でもってひどい!」

むっとしながら頬を膨らませたモニカにほっぺたをつねられて、痛いよ、と言えばぱっと手を離したモニカはなんだかご機嫌だ。やけに楽しそうだからなんとなく僕まで笑えてきてしまう。
本を読もうとしてたのに結局モニカを起こしただけで休憩時間が終わってしまったけれど、たまにはこんなのもいいかな、なんて思った。



まどろみから覚めて





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