昔、町のいじめっ子たちに絡まれていた時に一度だけ、モニカに助けられたことがあった。
モニカは一応女の子だし、ミカサのように腕っぷしが強いわけでも喧嘩が強いわけでもないから力でねじ伏せたわけではないけれど、あのモニカが僕を助けるなんて思わなかったから少しだけ驚いた。
ただのいじめっ子だと思っていたモニカは奴らとはだいぶ違って正義感に溢れていて、その時はなんだか悔しいけどモニカがかっこよく見えた。
いつもふらふらしていて悪ふざけをしているだけじゃなくて、本当は真っ直ぐで優しい子なんだと。
だからと言ってモニカへの苦手意識が薄れたわけでもないし、その後も相変わらず僕をからかうのは変わらなかったけど。



おつかいを頼まれた帰り、あまり人通りのない裏路地を歩いていたら普段から僕に対して言い掛かりを付けてくるいじめっ子たちが三人程集まって何か話しているのが目に入った。
また何か難癖を付けられたりしたら面倒だと踵を返して別の道から帰ろうとしたら「あれアルミンじゃね?」なんて話しているのが聞こえた。見つかってしまったと苦く思いながら振り返ると、彼らはにやにやと笑いながらこちらに近付いて来ていた。

「何逃げようとしてんだよ」
「アルミンのくせに生意気だぞ」

僕よりも身長の高い彼らに回り込まれて囲まれてしまって、パンや野菜が入った袋を抱えている手にぎゅっと力を込める。

「買い物帰りか?相変わらずお利口さんだな」
「…君たちには関係ないだろ」

正面のリーダー格の奴を睨みつけたら、面白そうに意地の悪い笑顔で僕を見下ろしてきた。
僕が反抗的な態度を取れば取るほど彼らは面白がって更に突っかかってくるって言うのは分かってはいるけど、だからと言って屈するのはごめんだ。僕は何も悪いことなんてしてないんだから。

「一丁前に睨んできたぞ、このチビ」
「何回殴られてもわかんねぇらしいな」
「壁の外に行きたいんだろ?これは預かっといてやるからさっさと行ってこいよ、異端者」

抱えていた荷物を乱暴に取り上げられて思いきり肩を押された。背中が壁に当たって思わず顔をしかめて呻くと奴らは可笑しそうに声を上げた。

「返してよ!」
「取れるもんなら取ってみな」
「こいつには無理だろ」

もがくように手を伸ばすけど、荷物を奪った奴は片手で僕を押さえ付けているしそれを頭上に掲げられているしで届かない。
何が面白いのかげらげらと笑う彼らと、やられっぱなしで情けない自分自身の両方に腹が立ったけど歯を食いしばることしか出来なくて、悔しくて涙が滲んだ。
僕にもエレンのように勇敢に立ち向かう心の強さと、ミカサのように奴らを蹴散らすことが出来る力の強さがあれば。自分の無力さがどうしようもなく歯痒い。

「お前、そんなに弱っちいから友達があのエレンとミカサしかいないんだぜ」
「私もいるよ?」

突然この場に似つかわしくない高い声がしてびっくりしてそちらに目を向けると、少し怒ったように眉を上げたモニカが立っていて。
ずかずかと近付いて来て奴らと対峙したモニカは咎めるようにぎろりと睨みを利かせた。

「なんだよ。お前だっていつもこいつのこといじめてるだろ」
「あんたたちと一緒にしないでよ。私はアルミンが可愛いから構ってるだけだもん」
「こんななよなよした奴が可愛いだってよ!」
「モニカ、お前趣味悪すぎるぞ!」

モニカの言葉に奴らは大きな声で笑いだした。
惨めで情けなくて、歯を食いしばる。そんなこと、言われなくてもわかってる。
下を向くとモニカの手が視界に入って、彼女は両手の拳をぎゅっと握り締めた。

「アルミンは頭良いし根性あるしあんたたちとは正反対だよ」
「なんだと?」

睨み付けたまま、一歩も怯むことなくそう言ったモニカの言葉に奴らは顔色を変えていきり立った。
女の子だろうがモニカまで殴られるかもしれない、と焦る僕なんかお構いなしにモニカは更に続ける。

「弱い者いじめして偉くなった気でいるの楽しい?」
「てめぇ……」
「女だからって調子に乗るなよ」

一人がまさに殴りかかろうとした時、何を思ったかモニカは突然くるりと振り返って大通りの方に向かって大声を出した。

「憲兵さーん!それかハンネスさーん!助けてくださーい!!」

びくりと反応して動きの止まった奴らは明らかに焦っているようだった。憲兵やハンネスさんが都合良く来てくれなくても、モニカの声を聞き付けた人が来るかもしれない。

「チッ。行こうぜ」

舌打ちをしたり悔しそうにしてモニカを睨みながら奴らは僕の荷物をほっぽり出して去って行く。
ふう、と一つ息を吐き、荷物とその中から転がった芋を拾い上げながらモニカが僕に近付いた。

「パンとかお芋とかで良かったね。とりあえず中身は無事みたい」

はい、とそれを手渡されて受け取った。
モニカの顔をじっと見つめたら笑って首を傾けながら、ん?と聞いてきたので素直に問い掛ける。

「…なんで助けてくれたの?」
「え、うーん今ので助けたって言っていいのかわからないけど…あいつらには前から一言言いたかったし、今日はエレンもミカサもいないみたいだったから」
「……」
「あと私以外の奴がアルミンをいじめてるの見るとなんとなく苛々するから、かな」

その理屈はよくわからないけどモニカに助けてもらったことには変わりない。
奴らに真っ向から立ち向かうモニカは、こう思うのもちょっと悔しいけど…かっこよかった。
もしかしたら殴られていたかもしれないのに、それでも怯むことなく僕を助けてくれたモニカにお礼を言わなきゃと口を開いたら同時にモニカが僕の顔を覗き込んで来た。

「大丈夫?泣いてない?」
「な、泣いてないよ!」

僕よりもモニカの方が少し背が高いから見上げるようにしてそう言ったら、アルミン可愛い、なんていつものようににこにこしながら頭を撫でられる。

「あいつらもアルミンが可愛いからついいじめたくなっちゃうのかなー」
「それは絶対にないと思う…」

僕のことを可愛いなんて言うのはモニカだけだよ、と言ったらそんなはずない!とやけに力強く反論された。

お礼、言いそびれちゃったな。



ヒーローなんて柄じゃないよ





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