毎日のハードな訓練を終え、各々が自由に過ごす就寝前の貴重な自由時間。

夜風に当たりたくなって外に出て、寮から少し離れた静かな草むらに腰を落とした。

無意識にある歌を口ずさむ。

小さい頃、母に教えてもらった歌。

―――今はまだ小さな世界だけれど、諦めなければ世界は広がる。
どこまでも続く偽りのない真っ青な空と、空と同じ色の海。
勇気を出して前へ進めば、まだ見た事もないたくさんの素晴らしい景色が待っている―――


外の世界。
本当にそんなものがこの壁の外に広がっているのだろうか。
見てみたいとは思う。
思うけれど、どこか現実的ではない気がしていた。

厳しい訓練の毎日で、ホームシックになっていたのかもしれない。

少し感傷的になっていると、背後で草が擦れる音がした。
驚いて振り返ると、金の髪を揺らした目の青い男の子が、眉を八の字にして慌てたように立っていた。

「あ、ご、ごめん、びっくりさせちゃったかな」

彼はたしか、成績優秀なミカサ・アッカーマンと、何かと目立つエレン・イェーガーとよく一緒にいる…。

「えっと、アルミン?」
「ごめん、寝る前にちょっと外の空気を吸おうと思って外に出たら歌声が聞こえたから来てみたら君が歌ってて、つい」

そんなに大きい声で歌っていたのか、それとも彼の耳が良いのか。
何にせよ辺りを見回しても他の人の姿は見えなかったから少し安堵する。

「こちらこそごめん、あの、下手くそな歌聞かせちゃって…」

大して上手くもない、音程も外れていてめちゃくちゃな歌。
今まで誰かの前で歌うなんて経験はなかったから、それが聞かれていたとわかると途端に恥ずかしくなる。

「下手なんてことないよ。とても綺麗な歌声だった」

彼は何でもない事のようにさらりとそんな事を言ってのけるものだから、私は更に恥ずかしくなって目線を下に落とした。
あまり喋った事はないけどちょっとは知ってる。彼は誰に対してもそんな態度。優しいんだ。

「その歌、聞いた事がないけどすごく良い歌だね」
「私もよく知らないけど、昔母に教えてもらったんだ」
「そうなんだ」

外の世界については全て禁忌とされているから、絶対に家の外では歌ってはだめだよ、と教えられていた。
家の中以外でこの歌を聞いた事はないし、家の外で歌ったのもこれが初めてだった。
今日は歌いたかった。
今ここで歌ってみたかった。
何故かはわからないけれど、そんな気分だった。
母はこの歌をどこで聞いたのだろうとふと思った。

「もし良ければまた聞かせてほしいな」
「えっ…」

びっくりして顔を上げると、彼はにっこり微笑んだ。
何だろう、さっきから胸がドキドキしている。
顔も熱いような気がする。

「えっと…き、気が向いたら」
「うん。楽しみにしてるよ」

咄嗟に可愛くない台詞が口から出てしまってはっとしたけど、彼は気にした様子もなくまたにこにこと笑った。
調子が狂う。
これがジャンやコニーだったら、下手な歌をからかわれてちょっとした口喧嘩をして終わるはずなのに。
私の胸のドキドキは終わらない。

「そろそろ就寝時間だね。ナマエも寮に戻った方がいいよ」

さり気なく名前を呼ばれて、また心臓が高鳴った。
同じ訓練兵の仲間なのだから名前を呼ぶなんて当たり前なのに、その当たり前が嬉しくて顔が綻びそうになるのを必死で堪えた。

さっきからうるさい私の心臓はどうしてしまったんだろう…。


風光の唄
気になりだしてしまった思春期





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