心臓が破裂しそうなほど苦しい。
肩を大きく上下させて荒く呼吸を繰り返す。
足もガクガクしているししばらくは立ち上がれそうにない。

兵站行進は苦手だ。
今日は班ごとに分かれて目的地まで誰が一番に辿り着くかを競う訓練だったのだけれど、私はよりによって一番最後だった。
人より体力がないのは分かっていたけれど、ここまで自分がだめだとは思わなかった。

こんなんじゃ卒業できないんじゃないだろうか。
悔しくて泣きそうになるけど、泣いたって何も変わらない。
余計惨めになるだけだ。

頑張らなきゃ。
だんだん呼吸が落ち着いてきた。
目尻に溜まった涙を拭い、深く息を吸い込んで呼吸を整える。

「大丈夫?」

遠慮がちな声がしてその声のした方を見上げると、心配そうな表情をしたアルミンが見下ろしていた。
せっかく落ち着いてきた心臓が、また速く鼓動し始める。

良ければどうぞ、と水を渡されたので一言お礼を言ってありがたく頂いた。
少し温めの水分がカラカラだった喉を潤していく。生き返る。

…あれ。これは、もしかして、もしかしなくても、か、間接キス…じゃないのかな…。
ちらりとアルミンを見てみたけど特に何の反応もなかったので気にしない事にする。
私だけが気にしてたってなんだか虚しいだけだ。
気にされないのもどうかと考えてしまうけどとにかく気にしたら負けだ。


ふう、と息を吐いて不安定な心を落ち着ける。
今回の兵站行進ではアルミンも同じ班で、確か彼は私より一つか二つ先に目的地に着いていた気がする。
格好悪い所を見られてしまった。
女神…もといクリスタに後押しされてちょっと頑張ってみようかな、なんて意気込んでいた時にこれだ。

「…落ち込んでる?」

暗いオーラが滲み出ていたのか、それとも泣きそうになっているのが顔に出てしまっていたのか、ちょっと困ったように控え目に笑うアルミンが覗き込む。

「…私、頭良くないし体力もないし、何やってもダメだなぁって」
「そんな事ないよ。ナマエは頑張ってるじゃないか」
「…頑張っても、結果が出ないと何の意味もないよ」

私がアルミンに対して抱いている気持ちもそうだ。
頑張っている、なんて言う程何かしているわけじゃないけど、想っていても報われないんじゃ、気持ちを伝えても応えてもらえなかったら、何の意味もないんじゃないだろうか。
訓練も、恋愛も、一緒にするのはちょっと違う気もするけど、難しい。

「なんかごめんね、気を使わせちゃったみたいで」

居た堪れなくなって笑顔を作って、持ったままだった水を返して早くその場を離れようと思った。
弱い自分。
これ以上話していたらもっと弱音を吐いてしまうかもしれない。
こんなんじゃ嫌われてしまうかもしれない。
せっかく普通に話せるようになってきたのに。
明日からはまた頑張るから。
だけどアルミンは首を振った。

「こんな事言われたら嫌かもしれないけど、君と僕はちょっとだけ似てる気がするんだ」
「え?」
「僕は人より体力がないし、立体機動も、対人格闘術も苦手な方だけど、だからってそこで諦めたくないんだ。苦手ならもっと頑張ればいい。限界まで頑張り続けたら、もしかしたらどうにかなるかもしれない」
「……どうにか、なるかな?」
「諦めたら終わりだけど、諦めなかったら道は拓けるんじゃないかな。ありきたりだし根拠のない話なんだけどね」

僕も人に言えるほどすごく努力してるってわけじゃないから、偉そうなこと言ってごめん、とアルミンは笑ったけど。
僅かな期間だけど見てきたはずだ。
どんなに辛い訓練でも絶対に人の手は借りようとせず、自分の力だけでやり遂げようとしてる所とか。
必死に皆の背中に追い付こうとしてる。

「私も諦めたくない。それにアルミンが頑張ってるの、私知ってるよ。だから…私も頑張ってみる」
「うん。一緒に頑張ろう」

一緒に。
そんな一言でちょっぴり元気になれてしまうなんて、つくづく私は単純だ。


終業の鐘が鳴る。
少し名残惜しかったけれど、励ましてくれたアルミンにお礼を言ってその場を後にした。
さっきまでとは比べものにならないくらい清々しい気分で。
一人じゃないから、明日からはもっと頑張れる気がする。


一歩前進


「………あ」
「ん?」
「ど、どうしようエレン…!」
「何が?」
「…か、かん、かんせつ……!」
「?関節??」
「何で気付かなかったんだろう僕の馬鹿…!」
「顔真っ赤だぞアルミン」






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