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中身は忠実
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鋼の錬金術師とその弟 ーー
こんな偶然あるんだなと思いながら
目的の駅に着くまで浅い眠りについていた時。


「水!?」

「なんか前の車両、水浸しになってる!」

『………』


そういえばさっきも知らない人がここを走って行ったり、人質がどうとか言ってバタバタしていたが、はなこも昨日まで違う意味でバタバタしていてろくに寝ていないので、そんなことには気付かずに寝ていた。

が、流石に何か様子がおかしいことに気づき
客が群がる前の車両への入り口向かった。

その車両にはエルリック兄弟が乗っていたし
ガラス越しに見える水浸しの車両は
おそらく彼らの仕業だろうと推測できた。
犯行グループらしき男たちが尻餅をついているからだ。


『ちょっとすいません』


はなこはそう言って群がる客の中を通り、
前の車両へと足を踏み入れた。
乗客と犯罪グループの男達が同時に反応する。


「はなこさん気をつけて!その人達は!」


どこからかさっき話したエルリック兄弟の
アルフォンスの方の声が聞こえた。

ーー 刹那

犯人らが尻餅をつく水位5センチほどの床がパキキ!!!と音を立てて凍りついた。それは稲妻でも走るかのように、一直線に一瞬で。

しかもその氷が捉えているのは犯人と思われる男達だけで、乗客にはなんの被害も及んでいない。強いて言うなら少し寒いくらいだ。


「なっ……氷…?」

「何もないところに…!」


ーー はなこはアルと、そして戻ってきたエドと共に犯人達を縄で縛り、駅へと向かった。

当然足元から発生させた氷に関して聞かれたので、足の裏にも手と同じ錬成陣があるとはなこは答えていた。






「や 鋼の」

鋼の錬金術師こと、エドワード・エルリックとその弟が漸く駅にたどり着くと、そこにはどういうわけかマスタング大佐とその部下がいた。

「あれ 大佐こんにちは」

この汽車でおきた一連のことをすべてお見通しだったと言わんばかりの笑顔を浮かべ、軽い挨拶をしてきた大佐にエドは心底嫌そうな顔をした。

「なんだね その嫌そうな顔は」

「くあ〜〜〜大佐の管轄なら放っときゃよかった!!」

「相変わらずつれないねぇ……っと。まだ元にはもどれていないんだね」


機械鎧を身につけたままのエドを見て
マスタングはそう言った。エルリック兄弟は元の体に戻るために旅をしているからだ。


「ああ、そういえば国家錬金術師がひとり乗ってたぜ。身体に錬成陣の刺青があって、氷使うとんでもないヤツ」

「たしかにあんなの初めて見たけど…優しくていい人で、犯人達を縛る時に協力してくれたんです」


兄弟が汽車で会った国家錬金術師の話をすると、マスタングは「へぇ、それは奇遇だね」と口角を上げた。


「まさかこの一連のゴタゴタも大佐がなんか仕組んでたんじゃねーだろーな!?」

「そんなことより君は覚えているか?数年前、君が国家試験を受けた後に話した、君がこれで"2人目"の事を」

「国家試験のときのことなんか覚えて………………………ってもしかして"2人目"!?」

「…兄さんなんの話?」

『マスタング大佐、ただいま休暇より戻りました』

「ちょうどいいところに。そう、彼女が ーー ってオイ!?」


汽車から出てきたはなこがマスタングにぺこりと頭を下げると、はなこはマスタングがエルリック兄弟に自慢げに紹介しようとはなこの肩に置くつもりだった手を無視し、スタスタとホークアイの方へ行ってしまった。


「プ。大佐フラれてんじゃん!ダッセ!」

「もしかして…大佐の部下なんですか?」

「フラれたのではない!…いつもは頗る忠実な私の部下だ」


マスタングは"いつもは"を強調する。


「貴様…!」「ぐあっ…!!」


すると突然、捕縛していた犯行グループのトップがいつのまにか縄を切り、周りの軍人に怪我を負わせた。そして、
敵の目がマスタングに向いたその時 ーー。

パキキキ…ー!!

人と人の間の地面を一直線に氷が走り、その男の爪先から腰までを一気に駆け上り動きを止めた。それは一瞬のことだった。


『………』


これを見るのがまだ2回目のエルリック兄弟は、その氷の発生源の方へと振りかえる。

そこには、さっき電車で見せていた笑顔が嘘のように、冷たい顔で敵を見つめるはなこが立っていた。
さっきまで大佐をアッサリとスルーして、その部下のホークアイに抱きついていたのに、大佐に敵の目が、意識が向いた瞬間のソレだった。


銃を取り出しながら大佐の方へと駆けつけるホークアイと、歩いて敵の方へ向かうはなこ。そんな二人の部下をマスタングは手で制し、「焔の錬金術師」として、自ら手を下したのだった。





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