翌日、ゲート前。
きっちりと戦装束に身を包んだ長曽祢虎徹、鶯丸に前田藤四郎の三振りの姿があった。
「ええっと、なぜ長曽祢さんと鶯丸様まで?」
「面白そうだったんでな」
「鶴丸国永に頼まれたんだ」
「長曽祢さんは手入れ部屋に入った方がよろしいのでは……」
「いや、これはわざとなんだ。作戦らしい」
長曽祢の装束はところどころ破け、露出されている肌には数カ所湿布が貼られている。しかし実のところ軽傷すら負っていない。
昨晩、なにかと集まるのが習慣になっていた新撰組の刀たちがいる部屋を珍しく訪ねた鶴丸が頭を下げた。
「負傷した姿で万屋の共をしろ、と?」
「そうだ。新撰組局長の刀として誉高い君にさせて良い真似でないことは重々承知している。だがより確実に信頼できる政府の者と接触するために、打てる手は打っておきたい」
無礼は承知。断ってもらっても構わない。
戸惑いや怒りを滲ませる沖田と土方の刀もいる中で、さらに深く頭を下げた鶴丸に、長曽祢は静かに首肯した。
長曽祢は鶴丸に感謝している。
顕現してすでに半年を超えた今でも続く蜂須賀との決闘。
思っていた形では無かったけれど、そこまで険悪になることなく蜂須賀と向き合える機会をくれた刀と聞いていたから、そんな彼がそこまでするのなら、それも本丸のためというのならば。
それでも尚プライドを優先して突っぱねるのは義に悖るというものだろう。
そう思って長曽祢は頷きはしたわけだが、
「大のために小を切り捨てる。将として時には必要な決断だとは思わなかったのか?」
今回の件を、主にそれをさせるための試練としようとは思わなかったのか。
長曽祢は鶴丸と親しいわけではないが、噂に聞くかぎりの彼ならば、そうするのではと思っていた節がある。
鶴丸は目を伏せた。
本当に美しい刀だと思う。長曽祢とは、生まれも来歴も比べるべくも無いだろうに、一刀として向き合い頭を下げられるその心根も。
「俺は君たちより長く主を見てきた。そして君たちより少しばかり、人間にも詳しいつもりだ。
それにこれは今の俺の考えで、これから変わるかもしれないし、君らは君らで答えを出して欲しい。俺は、主を______ 」
続く言葉には複雑な思いが滲んでいる。
その寂しげな響きを、長曽祢は生涯忘れることができなかった。