見られてしまったのなら、と彼らは私達に全てを話した。
石切丸曰く、極秘ではあるが検非違使出現から歴史修正主義者は新たな歴史に進軍していた。
まだ検非違使の強さが相手によると判明していない頃のことだ。
第三勢力に政府側がてんてこまいになりながらも、そちらを放っておくわけにはいかない。
調査部から刀剣男士が出陣してみたところ、遡行軍も検非違使を警戒しているのかじわじわと様子見しながら進んでいるようだった。
それがある時から急に進軍が大胆になり、敵部隊の強さが揃い始めたという。
「政府が、検非違使は刀剣男士の強さに合わせてくるのだと、統計から割り出した頃のことだった」
「もちろん歴史修正主義者だって馬鹿じゃない。あちらもあちらで色々試していただろう。しかし政府がそれを突き止めた時期と、遡行軍の練度が揃い始めた時期はあまりにも一致していた。つまり、」
「情報の漏洩。一番考えられるのは密偵か」
「その通り」
花形殿が苦々しく頷く。
「そこで政府は密偵を暴くべく餌となる情報____敵部隊編成の傾向を、今度こそ秘密裏に用意し、絶対に信頼できると確信した審神者に協力を仰ぎ、疑わしい者たちを集めた」
まだ公開されていない時期に検非違使の強さの目安を知り得た可能性のある審神者を。
「待ってください。花形さん、私達のことも疑ってたんですか……?」
「すまない。稲葉ちゃんがそんなことする訳ないとは思っていた。しかし、全く疑わないわけにはいかなかった」
「そんな!」
「どうどう、落ち着け主。疑いの目を逸らすのに被害者という立場は実に効果的だ。あの日の部隊編成は短刀4、打刀1に太刀1。政府の戦績表を見る限り、こうも短刀の多い編成で一振りも折れなかった部隊は無かった。
お守りがあったとしても、あれはお守り・極じゃない。経験の少ない新人かつ最初の被害本丸でありながらあまりに被害が少なかった」
「鶴丸さんは折れかけたんですよ!?」
「だが折れてない。こんのすけも主に懐いて自主的に情報を下ろしてくれるし、担当官との関係も良好だ。うちの担当は優秀だからな。もしかしたらいち早く情報を入手し、審神者に伝えることも出来たかもしれない。俺たちを疑うというのは理にかなっている」
だからと言って気分の良いものではないし、実際には何も知らなかったわけだが……。
主は花形殿をずいぶん慕っていた。
顔は強面だし図体でかいしで現世で何も知らずに会えばヤのつく自由業かと思うような風貌だし、今でも急接近されると後退りするけど、師として、先達として。
親子ほど歳も離れてるから第二の父くらいに思っていたかもしれない。
そんな彼から疑われてショックを受けている主を諭す。
強くなれ、主。辛いことも上手く飲み込めるように、喉に詰まって窒息してしまわないように、乗り越えられるように、私が手伝うから。
「それに、疑われたのは気に入らないが今回呼ばれたのは悪いことじゃ無かった。主が気付いたおかげで、どうやら犯人は捕まった。主の手柄だ。そうだろう?」
既に偽物役人は連行されて行った。
確認するように問い掛ければ返っててくるのは肯定だ。
「奴は顔を面で隠せるのを良いことに似たような背格好の役人とすり替わっていた。ご丁寧にボイスチェンジャーまで使って。バッジは本物だった。本来の持ち主がどうなったのか、どこにいるのかはこれから担当部署で尋問する」
生きていると良い。こればかりは祈るしか出来ない。
イケオジが前に出て、主に向かって頭を下げた。
「我々が気付かなかったスパイを見抜いたその慧眼、見事でした。まさか選定の厳しい役人にスパイが入り込んでいるとは思わず……誠実に職務を果たす貴方を疑ったこと、誠に申し訳ありません。そして、協力に感謝します」
「えっあ、はい!すみません!」
「いやなんで君も謝ってるんだい」
お偉いさんに頭を下げられてテンパってるのは分かるけれども。そこは頭を上げて、とかでいいんだよ。
「鶴丸様も、申し訳ありませんでした」
「俺は主が良いならもうそれでいいさ。これは大きな貸しだろうしな?」
「勿論でございます」
良きかな良きかな。政府に恩を売れたのは大きいぞ。
「あ、ちょっとすみません、もしもし小夜ちゃん?」
ホクホクしてると主の端末に着信だ。
相手が小夜と聞いて、私もスピーカーに耳を近づけた。ふむふむ、なるほどなぁ。
小夜の報告に主の顔が驚愕に染まる。
「小夜、今からそちらに行くから待機していてくれ」
「了解」
一言の後プツリと通話が切れる。COOLだ。
「鶴丸さん凄い!」
「主の刀だからな!」
手放しに褒められてつい桜が舞う。さて、と私はイケオジと審神者たちに向かって手招いた。
「もう一つ、政府に大きな貸しが出来そうだぜ?」