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ヴゥン
ああまたか。今回はスパンが早かったですね。
こんのすけはウンザリと独りごちながらいつもの場所へ走った。
「懲りませんね。何度来たとしても答えは同じですよ」
ペシっと尻尾を地面に叩きつけ、二言三言交わせばいつものように交渉決裂。
昨日見つけた山中の隠れスポットを目指して逃げた。
草木がいい感じに茂り、短刀くらいなら容易に隠せてしまうここはきっと隠れんぼの鬼才、秋田藤四郎の秘密基地だったんだろう。まるで宝箱のようにちょっと変わった形の石だとか、花の種だとかが木の虚に隠されていた。
ここを見つけた時は嬉しく、同時に寂しく、そして見つけてしまったことが申し訳なかったけれど、役人たちから逃げ隠れるのには最適だった。
秋田藤四郎の置き土産、ということにして勝手に使わせてもらい、最近はずっとここでやり過ごしている。
「…………」
何か変だ。
いつもなら足音や怒鳴り声が聞こえてくるのに、今日はやけに静かで。
「……まさかっ」
嫌な予感がして立ち上がると、周囲を警戒しながら本丸へ向かって駆けた。
まさかまさかまさかまさかッ
縁の下を括り沓脱石を超えてやって来た桜の木。
審神者たちの墓は何の変哲もなくそこにあった。革靴で地面を踏まれた形跡もない。
「考えすぎでしたか……?」
それならそれで構わない、と安堵の息を吐いた時、背後の屋内からガシャンッという派手な物音と同時に叫び声が響いた。
「本丸の中に!」
入らないで欲しい。入らないで。入るな!
その思いで一心に山を逃げて来たというのに、ずっと素直に追いかけて来てくれたからと油断していた。
物音と声は絶えることなく続いている。
一体なにをしているのか分からないが、本丸の中が荒らされている。
思い出がたくさん詰まった本丸が……!!!
怒りのあまり殺傷力の無いキバを剥き出しにし、土で汚れた足もそのままに室内に飛び込んだこんのすけが見たものは。
「ぅおぇええなんっっっスかコレェえええ!!」
「おェっごほっぅえええ」
とんでもない異臭を身に纏いながら目がァアアアと何処かの大佐のように叫ぶ青年と、ひたすらえずく上司役人。
ふらふらとよろめきながら進んだ先で、何故か転がっていた酒瓶に足を取られてすっ転んだ。
次いで天井から金盥が落ち、脳天に直撃。
「は?」
まるでピタゴラスイッチ。想像していなかった光景にこんのすけの思考が止まった。
「ちょっ、て、撤退、無理無理っスうぇ臭っ痛っ」
ボロボロになりながら近くまで来ているこんのすけには目もくれず、這々の体で逃げ出ていく役人たち。
残されたこんのすけはポカンとそれを見送った。
改めて見てみると散々な有り様だ。
障子は外れてるし破けてるし、文字通り土足で踏み入ったのか砂で汚れている。
歌仙さまが見たら怒り狂いそう……と思った。
自分だって土足……というより山を駆けて拭く暇も無かったせいで汚れたままの足なのだけれど。それも忘れて惨事の後を辿ると廊下になんだかよく分からない仕掛けと共に、若干開封されたシュールストレミングの缶詰が転がっていた。
こんのすけは自らの機能に嗅覚が備わっていないことを初めて感謝した。
どうだ、驚いたか!
どこからかそんな声が聞こえて来た気がして、くふふっと随分久しぶりに笑いが漏れる。
こんのすけがやったできる限りの清掃では見つけられなかったそれらに役人がたまたま引っかかったのか、それとも最初から本丸に一人取り残されるこんのすけに被害がいかないように仕組まれてたのかは分からないけれど。
「驚きましたよ、鶴丸さま!」
おかげで彼らはきっともう、本丸内には手を出さない。