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ひらりと桜が散った。
花弁は踊り、木の下でうたた寝していたこんのすけの鼻をくすぐる。
「ぷしっ」
自分のくしゃみで目が覚めたこんのすけはグッと伸びをして歩き出した。
「おはようございます。主さま、皆さま!」
冷たい墓石は物言わず、墓を守るように眠った鋼たちは二度とこんのすけに触れることはない。
きゅっと心が締め付けられて、情けなく鼻を鳴らした。
審神者の亡くなった本丸は解体が基本。
しかし彼らは政府軍の最高戦力。
ゆえに政府はほかの審神者に引き継がれることを願い出たが、彼女の刀剣男士達は一振りたりとも首を縦に振ることはなかった。
彼女が一等好きだった本丸の桜。
その根元に審神者を埋葬すると、主からの霊力供給が途絶えたことで顕現を保てなくなった者から順に、ただの刀へとその身を解いていった。
解く直前に頭に触れられた温かさを、こんのすけは忘れない。
こんのすけは審神者の霊力で動いているわけではないから、審神者が死んでも動けなくなることはない。
「きっと刀剣様たちは本霊には帰らないでしょう。寂しがりやな主さまを放って還ることなどできない、優しい神様たちです。
だから、皆さんの眠りはこのこんのすけがお守りいたします。
どうぞ安らかに。
ほかのこんのすけに比べて役立たずの私ですが今度は墓守として、この身朽ち果てるまでお仕えいたします」
審神者と四十二振りの刀剣に頭を下げたこんのすけは、墓に供える花を探しに草むらへと飛び込んだ。
虫や鳥の声以外生きてるもののいない本丸で一匹。
「わたくしも、はやくそちらへ行きたいです。また、みなさまに会いたいです」
漏れた本音は誰の耳にも届かない。