なんか、

「へぇ。良い雰囲気の店じゃねーか」
「隠れ家カフェってやつ?」
「なんかごめんな山姥切」
「いや、うん……」

なんか増えた!!!!




前回の来店から逆算して、そろそろまた来る頃かな?とわりと緊張して迎えた週末。

客足が途絶えて細々と掃除や仕込みといった作業をしていると、いつも通りの時間にカランとドアベルが鳴った。

この時間に来る客なんて一人しかいない。

昔の記憶を思い出してから会うのは初めてで、後ろめたさと申し訳なさと嬉しさその他諸々ごちゃごちゃした心境のまま、全てを堪えて接客用の笑みを貼り付けていらっしゃいませと振り向けばそこにいたのは金髪ヤンキー。

ふあ!!?

予想外の出来事に一瞬固まっていると、その後ろからゾロゾロと現れたのは秋田の兄弟で何度か見たことのある短刀脇差と初見なふんわりした少年。そして最後尾に山姥切長義。

興味深げにキョロキョロ店内を見回す彼らと、こちらに向かって申し訳なさそうに両手を合わせる長義くんに子細は分からずとも察した。

まあ仕方ない。長義くんにとっては不本意だったかもしれないけど、ここに来れたということは霊刀の類ではないのだろうし彼らも立派なお客様だ。第三者のいる場で昔の話をするわけにもいかず、緊張は無駄になってしまったがちょっぴり安心しているのも確か。いずれ向き合わなければいけないと分かっているけど。

兄弟刀が二振りいるということでメニュー表を渡しに行った秋田に引き続き接客を任せて私は厨房に入る。一人前だけ用意してあったデニッシュとソフトクリームはそっと賄い用の冷蔵庫に移した。
さて、この時間でも提供できるメニューは何があっただろうか。と思ったけれど、連れがいるということでいつも程長居するつもりはないらしい。それぞれコーヒーや紅茶だけ注文して何やらコソコソ話に興じている。

耳を澄ますのは失礼だろうな、と3人掛けのテーブル2つをくっつけているのになぜかぎゅうぎゅうと詰め寄って額を合わせている彼らから意識を逸らした。

いつも一つ埋まっているはずのカウンター席が少し寒い。


最近紅茶の淹れ方を練習していた秋田が兄弟の分を淹れたがったので作業を見守っている間、チラチラ視線を感じて布面の下で目を細める。

さて、たしかに長義くんには申し訳ない事をしたとは思っているし政府に届け出を出さず営業していることもたしかだけれど、ここまで見逃しておいて今更摘発に来たとも考えられない。

なぜ長義くんが彼らを連れて来たのか分からない。連れて来たってより付いて来られたの方が正しいようだし。

長義くんが話して興味を持たれたのだとしても、どこまで話したのだろう?
この視線の意味はなんだろう。

敵意は感じない。どちらかと言えば好奇の視線だ。

ドリンクを配膳してる時にも感じる視線があまりに熱心なのでついそちらを見れば、ふんわり少年がこちらを見ていた。
なんだかとても目がキラキラしてる。

あっ眩しっ。

精神的何かが削られる気配に会釈だけして目を逸らしたのだけど、そうは問屋が卸さないらしい。

「はじめまして!物吉貞宗と言います」

「ご丁寧にどうも、店主のクロハです」

貞宗……一度だけ短刀の貞宗が来たことあるけど、あのちっちゃい伊達男くんの兄弟だろうか。

秋田と一期一振を見てれば分かるけど、刀剣男士というのは兄弟だからと外見が似る訳でもないらしい。その割に本科と写しはそっくりだけど。

「あっ俺は鯰尾藤四郎です。こっちが後藤藤四郎。弟の秋田がお世話になってまーす」

「南泉一文字」

「僕たち山姥切さんと所蔵元が同じなんですよ!」

あぁなるほど。共通点が見当たらずどういう繋がりかと思えば徳川美術館の。
実は現世に行った時に寄ってみようかと思ったけど、彼とすらちゃんと話してないのに初対面の本霊に凸する度胸は無かった。それに美術館とか博物館とか付喪神の宝庫すぎて私みたいな放浪妖怪にはアフェー感強いんだよね。

そういえば一時期耳に入って来ていた山姥切問題。

写しである山姥切国広こそを本物の山姥切とした審神者の誤った認識がそもそもの原因だった騒動。

虐待、破壊、存在否定その他諸々。
まるで万屋街が出来る以前に大問題になった本丸の再来。

長義くんもこの騒動の被害者だったのかもしれない。
というより十中八九そうだろう。

秋田の時も思っていたけど神職である審神者という名を付けられた職に就いていながらよくもまあ……ほんとにまったく、うちの子になんと愚かなことをぅあああああ。

ダメだダメだこんなこと考えたらうっかりこっかり妖力垂れ流してしまう。
政府の刀剣男士を前にそれは洒落にならんぜ。

深く考えると長義くんを元翼下の子として認識し直してしまった今、全ての審神者が救いようのないアホだとは思わないけれどちょっとばかりアヤカシNIGHTで力任せに暴れ放題してしまうかもしれない。

平常心平常心、素数を数えろ。
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