検非違使とは、日本の律令制下の令外官の役職。平安時代の警察組織である。____以上、曖昧な脳内Wikiより
つまりなにが言いたいかというと、何アレ私の知ってる検非違使とちゃうやん。
これに尽きる。
なんて明後日の方に思考を飛ばしてる場合じゃない。
「長義くん!!」
時空を歪めることで無理やり私の結界を破ってくれやがったあの検非違使と呼ばれたモノ共が、疲労を溜め込んでるはずのあの子を追っていく。
どんな理屈か正体か知らないが、あの鬼モドキと似た姿のソレが全く同じ存在だとは思えない。
なんせ、現に長義くんが迷い込んでしまうようなまだまだ未完成品とはいえ丈夫さには自信のあった私の結界を堂々と破ってきたのだ。
私には一瞥もくれずに銀の背を追う検非違使。
逃げろ、と言った後走り去った彼が何を思ってそうしたかなんて分かってる。
私を巻き込まないためだ。
ろくに回復出来てない体で、私を守るにはそうするしかないと判断しのだろう。
「………ふざけろ」
グルリと腹の中で獣が唸る。
翼を大きく広げ怒らせて、溢れ出る妖気でザワザワと空気を揺らいだ。
全くふざけている。
嗚呼、こんなにも怒りを抱いたのはいつぶりか。
その怒りを抑えることなく身をまかせ、私は鬱憤を晴らすべく力強く羽ばたいた。
どれほど走れただろう。どれほど遠ざかれただろう。出現した検非違使は残らず付いてきてくれただろうか。
上がる息、弾む鼓動、限界を訴えて震える足。
なんとか躱しながらも徐々に切りつけられて血の滲む身体。
後ろに流れて行く木々の隙間からキラリと槍の突きが迫るのをぎりぎりで視認。
間一髪で一撃を受け止めた衝撃でたたらを踏み、木に背を打ちつけ足を止めてしまった。
完全に追いつかれた。
山姥切は乾いて血の味が滲む口内を舐め、検非違使を睨みつける。
迫る白刃を掻い潜りその胴体を斬り付けるが、いかんせん練度は同等、多勢に無勢で勝機が見えない。
もともと癒えていなかった疲労も重なり、本体を握る力が一瞬緩んだ。その隙を見逃してくれる検非違使ではない。
大太刀の力でギンッと下から打ち上げられ、衝撃に耐えきれず刀を手放してしまった。
本体が宙に舞い、太刀の一撃が迫る。
「ああクソッ」
思わず悪態を吐く。
避けきれない、ならばせめて、腕一本を犠牲にしてでもなんとか凌がなければ。
来るであろう痛みに備えて奥歯を噛みしめ腕を構えた時、ふいにじわりと胸の奥に温かいものが広がった。
「私の雛鳥に、何してんのよ!!!」
月明かりが刀身に反射して、その一閃は夜闇を切り裂いた。
血潮が飛ぶ。
完全なる認識外から脳天を貫き一太刀のもとに切り捨てられ倒れた仲間に検非違使が怯んで後退した。
バサリ
長義の前に舞い降りた黒い翼の背中が立ち塞がる。
ッなんで逃げてない!
長義は喉から出そうになった言葉をすんでのところで飲み込んだ。
射抜く視線で縫い止められる。
半身でチラリと振り向いた彼女の紅玉の瞳は爛々と輝き圧倒的強者の風格を湛え、下手なことを口にすれば、その刃の餌食になるのはこちらなのではないかとすら錯覚した。
「長義くん、私ね、怒っているの」
一節一節で区切るように淡々と。
おそらく打ち上げられたのを空中で捕まえたのだろう本体である「山姥切」を、真っ直ぐに検非違使へ構えると低く唸るように告げた。
「縄張りを荒らす不埒者共が。雛鳥を傷付けられた親鳥ほど、強く恐ろしいものは無いと知れ……!」