そういえば、いつぞや髭切に斬りかかられた時もあの刀は非番だと言ってたような気がする。

なんなんだろうね?非番は働かないと言いつつ揃いも揃って私を奇襲しに来るのは。

というか本当、この店が妖怪の営む店と分かってるだろうに来たのが霊刀といえど万屋管理部とはどういうことだ?

来るなら怪異対策部では……いや臨時職員と言ってたな。正規所属は怪異対策部とかか?

「その布面は外さないのかな?」

そんなことをつらつら考えていると、お出しした紅茶とスコーンを素直に絶賛する目の前のカウンター席に座る刀からそんな言葉が飛び出した。

「標準装備ですので」

「日常でも付けてるわけじゃないだろう?もう営業は終了しているじゃないか」

「お客様がいますので」

「俺は押しかけだからね。客と思わなくていい」

「お帰りはあちら」

「つれないなぁ……」



何考えてるのは分からないがどうやら見逃すというのは本気のようだ。
ある意味人質を取られていて、それだけに強く出られず言葉は返すけれど、なぜかそれに不快感はない。

不快感はない、がしかし警戒はしなきゃだから疲れるしそろそろ帰って欲しい。
なのにこの刀は頬杖をついてすっかり寛ぐ様子を見せている。

おかしいな……今朝の占いでは今日が厄日だなんて出なかったんだけど。

そのまま愚痴だか世間話だかを聞き続け、ちょくちょく入る顔見せろコールを聞き流し、きっちり1時間ほど長居した彼はやっとそろそろ帰るよと立ち上がった。


「当てて見せようか」


出口のノブに手をかけ、背を向けたまま彼は言う。

「……何をです?」

「この店のクロハ屋という名前。クロハ、とはあなたの名前だろう?」

「…まぁ…店主ですので?」

うん、と一つ頷いて彼はゆっくりと半身で振り返った。

山姥切長義はここへ来てから随分と豊かな感情を見せていた。表情よりもその瞳に宿して。

不敵で、好戦的で、挑戦的で、なぜか好意的で、話してる時は楽しそうで、

そして今は、わずかな希望と___

「当てて見せよう。俺が、そうであればいいなと思っているだけに過ぎないけれど」

あなたのその、布面の下を当てて見せよう。

彼の唇の動きがスローモーションのように見えた。


「赤い紅い、けれどとても美しい
          _________夕刻の空の色だ」


カチ、コチ、カチッ

長針が真上に来たホールクロックがボーンボーンと古めかしい音を立てた。

それと調和するようにドアベルを鳴らした彼は少し名残惜しそうに足を踏み出す。


「また来るよ。次も、非番の日に」





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