職員として顕現されたいわゆる政府刀と呼ばれる刀たちは、特定の主を持たないため人間の職員と同僚、仕事仲間以外のなにものでもなく、ゆえに通常の刀剣男士と比べてステータス上の数値に関わらず真剣必殺が出にくい……つまり何がなんでも折れず帰らなければならない場所がないことでいざという時に火事場の馬鹿力が出しづらいという傾向にある。

他にも主がいないから主命がない。つまり業務であっても命令ではないので拒否が可能であったりと働き方や考え方、性格が本丸所属よりも自由奔放な気がある。人より神寄りの思考をすると言っても良い。

しかし本丸所属の刀剣男士とは求められる戦力的意味合いが違うのでそれらは大して重要ではない。
政府所属だからこそ強化されている部分もあるのだから。

むしろ近年では仲が良すぎるあまり恋愛に発展して運営に支障が起きたり家族ごっこになって戦績に影響がでたり……と政府も頭を抱える本丸事案が出ているのでそれに比べれば全く問題がないと言えるだろう。


そしてこれはとある日、政府にある怪異対策部のとある課の一室でのこと。


「ねぇねぇおとうとーこれ見てよ」

「膝丸だ兄者。審神者オカルト板の監視は青江の仕事だろう。なぜ兄者が」

「ひまだから?」

「机に乗ってる書類の山を見てくれ兄者」

この源氏兄弟は部署の名前の通り本丸、万屋、政府で発生する怪異に対応するために妖怪切りの物語の面を強く顕現した政府刀である。

つまり本丸所属の源氏兄弟では切れない怪異でも彼らなら切れる、ということだ。

さてそんな兄弟の兄が見ているのは審神者提示板……審神者たちがネット上でいろいろな情報共有や相談、雑談をするためのシステムのうちオカルトに関する事柄を投稿するサイトだ。

本来は戦場から幽霊を連れ帰ってしまったとか、現世で取り憑かれて帰ってきたとかの相談や、遭遇した怪異の情報提供に使われるのだが放っておくと面白おかしくひとりかくれんぼやらコックリさんを実況したり、自作で呪いを作ったり、感染系の怪談を語ったり、怪異の作り話をして本当にそのような怪異が産まれてしまったり……………と対策部の仕事が爆発的に増える事態に発展するのでオカルト板を監視する業務がある。

ちなみに「仕事を増やすんじゃねぇ!テメェら暇か!?」と職員が叫びたくなる事態になる板は他にも複数あって各部署に必ず監視員がいる。

さておき髭切がネットに興味を示すのは珍しい。そんなものを眺めるよりも実地でぶった切るのを好むので。

だからこそ、普段は青江に押し付けているそれに熱中する兄に付き合って膝丸も画面を除いた。

「万屋街の怪異?ふむ、聞いたことがあるやつだな」

「北の方で似たような怪異が起きた事があるんだけど、次に中央広場、南門付近、東通りって風に移動してるんだよねぇ」

「移動する怪異はべつに珍しくはないんじゃないか?被害も命に関わるようなものでは…」

「そこだよ」

膝丸の言葉にピシッと指を立てると机の上にあった一枚の紙を渡した。
簡易的な万屋街の地図に日付と×印がいくつもついている。

「これは…怪異の発生した場所か?」

「正確には命に関わらない、脅かし程度の怪異が発生した場所、だね。一応同一の仕業っぽいやつごとに色を変えたよ」

五色ほどあるそれはランダムに発生しているように見える。
何かあるのか?と首を傾げて考えるがよく分からない。確かにバラバラ具合が気にならないでもないが、妖怪であるならば縄張りがあってもおかしくは……いや、それにしては範囲が広過ぎる…?

「上手くバラけているように見える」

「だよねぇ。それも僕たちに出動がかからない程度に被害を抑えてある」

「巡回はあるはずでは?」

「運がいいのか悪いのか遭遇してないみたい」

「兄者は何がそんなに気になっているのだ」

どうにも分からない、と眉間にシワを寄せるとそのシワをグリグリと突きながら髭切は嗤った。

「知性を感じるよね」

「!」

怪異は「怪異」と便宜上一括りにしているがその中身は怪異騒動、怪奇現象、心霊現象など様々で、その犯人も神、妖怪、幽霊、人間、名称できない者たちなど多岐に渡る。
ほとんどが思うがままに行動するものだが、

「我らの巡回を本能的なもので警戒、回避するものはそう珍しくはない」

「でも、僕らの巡回頻度やその傾向をも考慮してここまでバラけているとするならば?」

「それは……」

知力や理性は高ければそれだけ長く存在し、相当な力をつけたナニモノかということになる。

「それが、まさかこんなにもいるというのか!?」

「落ち着きなよ、えーと」

「膝丸だ兄者」

「あーそんな名前。とにかく僕が言いたいのはこれらを統括してるモノがいるんじゃないかなってこと」

そんな名前、で流されたことに嘆く膝丸だがいかんせん悲しいことにいつものことなので、すぐに言われたことに頭を回す。
それではまるで茨木童子や星熊童子、熊童子なんかを従えた酒呑童子のようじゃないか。

「さあ?でもこの仮説が正しいならたくさん大物がいるってよりは誰か一人が調整してるって考えた方がしっくりくるなーと思ってね」

確かにと頷く。
そう考えると気になるのはその頭目の居場所だ。高確率で万屋街ではあるだろうが、あそこはなにぶん全国の審神者と刀剣男士が来るのでかなり広いのだ。
探すにしても虱潰しでは終わりが見えない。

「ね。面白いでしょ?」

「面白がれる事態では無いと思うが……って兄者、この紙は今日提出期限の書類じゃないか!?」

「ありゃー?」

「兄者ー!!!」


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