ふと気付けば死んでいた。
ザアザアと降りしきる冷たい雨に打たれながら私はソレを思い出した。
平成に生まれ、令和を生きた一人の女の人生を。
普通に生きて来た。
両親、妹一人、弟一人、柴犬一匹の家族。
母は美人で父は平凡そんな二人から生まれたおかげで容姿は悪くなかったと思う。
頭は良くも悪くもない。友達と好きな漫画の話で盛り上がるような普通のライトなオタク生活。
義務教育が終われば公立の高校へ行って、理系の大学へ進んだ。特になりたい職業があるわけではなかったけれど、研究職か医療関係の職に就きたい、という漠然としたイメージなら持っていた。
普通に大学を卒業して、普通に就職する。今までそうだったように、これからもその"普通通り"に生きて行くものだと、疑いもしなかった。
当たり前を当たり前と思ってはいけない。どこかの偉い人か誰かがそう言ってた。
だけど流石に転生タイムスリップなんて、誰が想像するだろう。
これ、なんてラノベ?
そう、タイムスリップなのだ。
私は確かに令和を生きていたはず。そして死んだ。そこまではいい。いや良くはないが。とりあえず多分死んだのだ。
なのに今目の前に広がる景色はいつか教科書で見た寝殿造りというやつではなかろうか。
「平安時代とかマジ無理ゲー」
雨音に掻き消された声に切なくなった私は、バサリと墨染の翼を頭上に広げて雨を凌ぐ事にした。
翼。翼である。なぜか人間だったはずの自分の背に立派な翼が生えていた。しかもわりと自在に動かせる。なんでやねん
ついでに観光地でしか見た事ないような庭園のど真ん中にいたにも関わらず通りかかる人は誰も気に留めてくれない。
「やっほー見えてる?」なんて目の前で手を振ってみても反応してくれなかった。
つまり私は幽霊らしい。いや背中の羽のことを考えるに妖怪だろうか?なるほど、この時代らしいじゃないか。
『転生したら平安時代で妖怪だった件』
ってところか。ラノベじゃん。