「あわわわわ銀さああん!!」
「残念銀さんは定休日ですハイまた今度。」
「何それ毎日休んでるじゃん!」
「うるせえそうだよ、だから面倒事を持ってくんじゃねえ、こっちは何でも屋じゃねんだから。」
「何でも屋でしょ!?」
「あ、そうだった。」
「何年やってんの!?唐突に自分の設定忘れないで!」
「何年もやってません、銀さん永遠にみんなのお兄さんです、そして設定って言うな。」
「ともかく銀さん、大変大変!」
「ああもう、わーったよ、何が大変なんだよ。」
「頼まれたものを魔法でお届けしようとしたら、」
「あー、無理無理、あれだろ、版権問題だろ。だから言ったじゃねえか、魔女が宅急便していいのは世界で一人なの。お前が黒いワンピース着てるのも殆どアウトだからね?リボンの色毎日変えてるって言うけど、赤色の日はもうスリーアウトチェンジだからね?それでお届けものってお前、此処でやったらパロディのパロディになってるし。もう訳分かんないから。それに俺がそういう大人の?権利?問題に?強いと思ったら大間違いだぞ、強いのはスタッフさんたちだから。銀さんと人生を共にしても良いという程の心意気を持ったスタッフさんたちがいてこその劇場版銀魂万事屋よ永遠な…」

銀さんの長台詞の何処でどう入ろうとおろおろしていたら、万事屋の戸が激しく打ち鳴らされた。ボロい戸が吹っ飛びそうな勢いだ。
部屋の中央で私たちはピタリと言動を止める。手に持っていた箒が滑って倒れた。
音と共に野太い声。

「分かっちょるんやぞ、此処に居るんじゃろうがアァン!?おんどれに預けられたブツ、大人しく渡して貰おかぁああ!!!お前の宅配サービスどないなっとんじゃゴラァ!!!」

銀さんの顔が一瞬で蒼白になる。ハハハ頭髪とお揃いだね、などと笑える筈も無く、私の顔も多分真っ白だ。
銀さんが小声で私を怒鳴るという芸当をこなす。

「おまえええええ何が魔法でお届けものおおおおお!?運び屋じゃん!ただの危ない運び屋じゃん!?そんなことしたいなら魔法使い辞めろ!組に入れ!」
「そそそんなあああ!それにお届けものが本業なわけじゃないもん、あくまで魔法使いのお仕事をしたいだけで!」
「じゃあ個人でやってくんない!?此処を住処にするのやめて!万事屋だから!パン屋じゃないから!」
「有名な方に寄せようとは思ってないよ!だって魔法使いのお仕事は人を助けるんだよ!人を助けるには、人が集まるところに仕事場置いた方がいいでしょ!?私は早く立派な魔法使いにだね!」
「だからっておま、」

そこで再び遮られる。

「おい出てこんのやったら火ィつけるぞゴラァアアア」

2人で震え上がる。

「あわわわわわ」
「今まさに助けて欲しいのは俺だよ!お前の魔法で何とかできねえの!」
「出来たら銀さんなんかに泣きつかないよう!」
「それもそうだな…あれ今凄い馬鹿にされたような。」
「どどどどうしよう、此れ渡せば帰ってくれるのかな…」

懐から小さな包みを取り出す。けれども、折角此処まで持ってきた物だ。渡す直前に何か危ない匂いがするぞと躊躇ったために恐い人に追いかけられたけれど。
すぐに銀さんに引っ手繰られる。銀さんは袋の上から触ってみて、拳銃かと眉を顰めた。

「これか、届け物ってのは…。」
「そうなの。道端で渡されて。」
「お前が魔女ってのも知られたもんだな。こいつなら上手く届けると思われたんだろう。」
「うん…あれ?そういえば私が魔女ってこと言ってないや。何か魔法で出来る仕事ないかなって道端うろうろしてたら、男の人に声かけられて頼まれた、だけ、だ…」
「はああ?じゃあお前ほんとにただの運び屋じゃねえか!ブツの宅急便しただけじゃねえか!」
「ま、まだしてないよ!」

ガンガン鳴っていた戸の音が、次第にドガシャンドガシャンと凄まじい音になってくる。

代々続く魔法使いの家系で、自分もまた立派な魔法使いとしてお仕事をしていくのだと思っていた。実家の魔法使い屋さんを継いで、薬を売ったりおまじないをかけたりすることも考えたけれど、世界を見たいと思って、此処まで来たのだ。
偶然見つけた万事屋銀ちゃんに転がり込んで、その一角に置いたみかん箱を受付とし、魔法で人の役に立とうとして半年。使える魔法も未熟だし、営業の力も足りない。もっとちゃんとしたお仕事がしたいのになあ。やっぱり派遣に登録しようかなあ。

「よーし、分かった。銀さんが今からお巡りさんを呼んでくるから君は此処で留守を守っておくように。」
「アイアイサー!…じゃないよ銀さん、あんなボロい戸のボロい鍵なんてもう壊されちゃうから!そして私も壊されちゃうから!」

窓から逃げようとしていた銀さんの着物の裾を掴んで言う。
厚い雲に覆われた暗い空を背景にし、銀さんはピタリと動きを止めた。
苦々しげな顔で振り返る。

「……分かったよ…お前がお巡りさん呼んで来い。鍵が壊れても銀さんが持ち堪えといてやらぁ…」
「流石銀さん!じゃあよろしく!」
「遠慮ねえな。」

椅子の横に転がしてあった箒を手に取り、今度は私が窓枠に足を掛ける。

「では行って来ます!」
「はいはい…ああもう戸が粉砕するな…せめてお前の魔法で直してから行ってくれればいいのに…」
「あ、なるほど。」

頷いたときには、既に窓の外へ出てしまっていた。
急いでポケットから杖を取り出すと、それは手品のように長く伸びた。あ、実際は魔法なんだけど。
木の節が手のひらに馴染むそれは、持ち手の方に輝く宝石が一個埋め込まれている。落ちながら箒に跨りながら銀さんがいる部屋の向こう、玄関へ向けて杖を降った。同時に急上昇。
杖から上がった桃色の光は一直線に戸口へ…なんて、上手くいかない。
そりゃそうだ、だって私、自他共に認めるおっちょこちょいなんだもん。そして尚悪いのは、おっちょこちょいを忘れて複雑なことをしようとするからなのである。
バカに速く高く飛び上がってしまって箒にしがみつく。そうしながら何故か万事屋が見える景色も変わらない。
ゆっくり見下ろすと、遥か下に1階のスナック部分が見えた。
どうやら、戸を新しくする魔法を失敗した挙句、かけどころも悪く2階が伸びてしまったらしい。

「おいいいいいい」

部屋の窓をガラッと開けて銀さんが叫んでいる。振り向いてもただただ曇天があるだけなので、間違いなく私に向かってだ。

「え、えへへ」
「何してくれてんの!戸の向こうの方も凄い驚いてんだけど!!怯えてんだけど!」
「結果オーライかなあ!!」
「んなわけあるか!!」
「ごめんなさい!!!」

またやってしまった、と肩を落としながらフヨフヨと漂い、銀さんが身を乗り出す窓の横へ箒をつける。

「はい。」
「あ?なんだ?」
「警察。一緒に行きましょう。」
「お前は本当に…はいはい乗りゃいいんでしょ乗りゃ。」

よっこいしょと銀さんが不安定ながらも私の箒の後ろに跨る。

「よーし、では出発!」
「あんまり飛ばすなよ、これ股間危ないぞ。」
「それビューン!!!」
「いだだだだだ揺らすな揺らすな潰れる!」
「あれれごめんなさい、つい!」
「ついじゃないし、減速してないし!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながら江戸の空を飛んで行く。
途中で神楽ちゃんや新八君を見かけ、手を振りつつ「今は帰れなくなってるよ」と伝える。神楽ちゃんは「見に行くアル!」と走り出し、新八君は「待ってよ神楽ちゃん!」とそれを追った。銀さんは2人が駆けて行った方を、心配なのか随分と首を伸ばして見ていた。「まああいつらなら大丈夫だろ…大丈夫だよな…」と呟いているので、いつもより少し可愛い。肩を揺らしながら前へ進む。

「おい」
「えへへ」
「おーい!」
「えっ、なっ、何!?銀さん可愛いなんて思ってないよ!!」
「はああ?何言ってんの?」

お互いにオーバーアクションで喋ってしまう。銀さんが「違う違う」と首を振って、私の腰の辺りに手をやった。

「ぎゃっ、飛行中のセクハラは機長の暴走を招きますのでご遠慮下さい!!!」
「セクハラじゃねえよ!!!杖!お前の杖!」
「へっ?わっ!」

見て驚く。ポケットに仕舞い損ねてはみ出した杖の先からは色が溢れていた。
正確には光だ。柔らかく流れ出す様々な光は棒状になり、下へゆっくりと落ちていく。軽くて薄そうだ。途中で消えていくものもある。

「あーあー、下界の奴らが騒いでるぞ。」
「やっちゃった…」
「何の魔法使ったの?」
「無意識に漏れ出すの、たまに。」
「…布とか当てとけば。」
「…オムツを想像してるでしょ。」
「あー、いやそんなことはー…おい無言で箒揺らすな!落ちる!」

箒のおしりをフルフル振ると、銀さんは慌てふためいた様子で声を上げるのでちょっと愉快。そう思って笑おうとしたのも束の間、背中に温もり。依然耳元で騒ぎまくっているが、私はそれどこではない。腰に回された太い腕の重み。それを意識した途端、シュシュシュシュシュと軽い音を立てて、杖からは先程と比べ物にならないくらい鮮やかで大量の光が溢れ、零れ落ち始めた。
色のついた雨のように。暗い背景に極彩の線を幾つも引いて。

「あわわわわ銀さん、どうしよう!」
「おー、いい眺めじゃねえか。」

止まらない光の集中豪雨におろおろする私。対照的な銀さん。彼は私の腰に手を回したまま、スイと下を覗き込んだ。

「いい眺めって、そんな。」
「ちょいとドライブしてこうぜ。どうせ戸口の奴もあの高さじゃ警察が来るまで立ち往生だ。」
「でも。」
「見てみろよ、みんな楽しんでる。」

おそるおそる、町の人をよく観察してみる。確かに、老若男女が上を見上げ、手を掲げ、笑顔で光の棒を受け取っている。

「あ、笑ってる。」
「だろ?」
「うん。」
「だからお前はさあ」

銀さんは其処で一度言葉を切り、グイと伸びて私の頭に顎をガスッと乗せる。いてっと声を上げたが、彼は気にせず続ける。光は絶え間なく降り続けている。

「あんまり慌てなくていいんだって。」
「え?」
「のんびりやれよ。魔法使いの仕事。」
「……うん。」
「多分、今のお前には、こういう魔法が一番合ってるから。」

2人で見下ろそうとした瞬間、バランスが崩れた。
頭の上から銀さんの顎が滑り落ちる。そして銀さんの頬が私の頬を掠める。

「どわっ」
「ぐわっ」

箒はまさかの急旋回。
杖から吹き出す明るい光の中へ突っ込んだ。
視界いっぱいの明るくて騒がしい赤青黄色、緑に紫橙、金色、銀色。
まるで銀さんと過ごす毎日みたい、と思うと同時に、後ろから小さな声。


「誰かさんに似た魔法だな。」


『魔法使いのあのこ』


企画「星墜」さんへ
バナー「はだし」さんより


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -