1.開戦(1)
曇天。
荒野を吹き抜ける風は、ざらりとした感触で体を撫でる。
その枯れた大地の向こうに、黒々とした影が無数に見えた。
---ベン、ベベン…
そこはこれから戦場になるというのに、まるで不釣り合いな、美しい三味線の音色が響く。
これでもかという程に精神の昂りを感じるのに、各々の顔には余裕の笑みさえ浮かんでいた。
---ベンッ、と三味線が最後の音を奏で終える。
それを合図にするかのように、白羽織を身につけた男が、どれ、と小さく声を発して立ち上がった。
続いて、美しい黒髪を束ねた男が立ち上がる。
長身の男はゆっくりと兜を被り直した。
そして、三味線を奏でていたのは、中性的な顔立ちをし、黒装束を纏った男。
彼は手にしていた三味線を岩肌に立て掛けた。
深い呼吸を、一度。
ゆっくりと、瞳を開く。
「---行くか。」
自信に満ちた曇りのない眼を、先に立ち上がった3人の男に向ける。
3人はそれに応えるように、力強く微笑んだ。
共に背中を預けて戦える、最高の仲間。
そして、傍らには。
「そっちは頼んだぜ。」
「もちろん。まかせて。」
女の身でありながら、一番隊を率いる鬼兵隊の副隊長。
最高に頼りになる相棒。
「んじゃ、ま、行きますかァ。」
「何だ、その覇気の無い言い方は。」
「最初から張り切るヤツが途中で息切れして迷惑かけンだよ。」
「ぬ…。」
「…オイ、おめーら鬼兵隊はどうよ?もう行けんのか?」
「あァ?いつでも行けるに決まってんだろうが。」
「…あーはいはいそうですかァ。おめーもいちいち癪に触る言い方すんなよな。」
「そいつはてめェだ。」
「いやおめーだ。」
「まぁまぁ二人とも。もう出撃なんだから後にして。」
「アッハッハッハ。おまんら、ここが戦場ゆうのわかっちゅうがかね。」
これから命を賭けた戦に出るというのに、まるで何て事は無い日常のような会話。
そんな仲間と共にいる。
だからこそ、こんなにも安心できる。
5人は、荒野の黒い蠢きを見据えた。
そして、腰に挿した命の光を、暗闇からゆっくりと解き放つ。
「とりあえず、これが終わったら酒でも飲んでパーっとやりますかァ!」
「あぁ!」
「おォ!」
「あァ。」
「うん!」
5人は朗々と声を上げ、戦いの場へと赴いた。
その先の未来が、明るいものと信じて疑わずに----。
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