1
---暇。
さくらは胸中でぼやいた。
仰向けであれば嫌でも視界に入ってくる天井。
何もする事がないので、その木目などをまじまじと観察してみる。
見ようによっては、人の顔に見えなくもない…。
「…ハァ。」
くだらない、と溜め息をつく。
一日安静と言われたが、起こした軽い脳震盪は回復したし、腕の傷を除いては至って元気だ。
じっとしているのは性に合わない。
「………。」
そろりと身を起こし、立ち上がる。
舟の中を散歩するくらいなら構わないだろう。
…高杉に見つからなければ。
そう思った矢先---
「さくら、入るぜ。」
その一番見つかりたくない男の声と共に、襖がすーと開いた。
(ぎゃーっ!!)
さくらは一目散に寝床に舞い戻り、布団を被る。
「いたたっ!」
咄嗟に怪我した方の腕で布団を掴んでしまった為、激痛に顔を歪めた。
「…何やってンだ、てめェは。」
「な、なんの事?そ、それよりどうしたの、晋助。」
白い目をして部屋に入って来る高杉を、さくらはさも安静にしていた風を装って布団の中から出迎える。
「怪我したんだろ。見せてみろ。」
「あ、全然すごい怪我とかじゃないから。筋肉も神経も無事だから傷口さえ塞がればまた刀は握れるし。」
「…。」
高杉は無言でさくらの枕元に腰を下ろすと、包帯が巻かれた彼女の腕をとった。
骨と筋肉に沿って触診するように指先を這わせる。
「…まァ、ほんとに大したこたァねーみてェだが…。」
指先を止め、ふぅと安堵の息を吐いた。
尖っていた彼の雰囲気が僅かに和らいだのを感じて、さくらもほっと胸を撫で下ろす。
「…だがなァ、」
が、それも束の間。
高杉はまたすぐに、キッと眼光を鋭くした。
「何で怪我したかわかるか。」
「……あたしが未熟者だから…?」
さくらは決まり悪そうに答える。
「勿論それもだ。そして、俺の言う事を守らねェからだ。」
「……。だって、やれると思ったんだもん。」
口を尖らせてすぐに反論して来たさくらに、高杉の眉間がひくりと動いた。
「それでな、一番の理由はなァ、」
先程よりも低い声に怒気を含ませ、
「てめェが弱ェからだ。」
強い調子でぴしゃりと言い放つ。
見るだけで射殺せるような視線つきだ。
「………はい。」
もう反論の仕様もない。
さくらは畏まって頭を垂れた。
確かに、自分の力量を過信し油断していたのはあった。
「もう戦には出させねェ。いいな。」
「え…!」
更なる追い打ちの言葉に、さくらは目を見開いて高杉を見た。
.
[*前] | [次#]
▼戻る▼TOP