---暇。


さくらは胸中でぼやいた。

仰向けであれば嫌でも視界に入ってくる天井。

何もする事がないので、その木目などをまじまじと観察してみる。

見ようによっては、人の顔に見えなくもない…。


「…ハァ。」

くだらない、と溜め息をつく。


一日安静と言われたが、起こした軽い脳震盪は回復したし、腕の傷を除いては至って元気だ。

じっとしているのは性に合わない。

「………。」

そろりと身を起こし、立ち上がる。

舟の中を散歩するくらいなら構わないだろう。

…高杉に見つからなければ。


そう思った矢先---

「さくら、入るぜ。」

その一番見つかりたくない男の声と共に、襖がすーと開いた。

(ぎゃーっ!!)

さくらは一目散に寝床に舞い戻り、布団を被る。

「いたたっ!」

咄嗟に怪我した方の腕で布団を掴んでしまった為、激痛に顔を歪めた。

「…何やってンだ、てめェは。」

「な、なんの事?そ、それよりどうしたの、晋助。」

白い目をして部屋に入って来る高杉を、さくらはさも安静にしていた風を装って布団の中から出迎える。

「怪我したんだろ。見せてみろ。」

「あ、全然すごい怪我とかじゃないから。筋肉も神経も無事だから傷口さえ塞がればまた刀は握れるし。」

「…。」

高杉は無言でさくらの枕元に腰を下ろすと、包帯が巻かれた彼女の腕をとった。

骨と筋肉に沿って触診するように指先を這わせる。

「…まァ、ほんとに大したこたァねーみてェだが…。」

指先を止め、ふぅと安堵の息を吐いた。


尖っていた彼の雰囲気が僅かに和らいだのを感じて、さくらもほっと胸を撫で下ろす。

「…だがなァ、」

が、それも束の間。

高杉はまたすぐに、キッと眼光を鋭くした。

「何で怪我したかわかるか。」

「……あたしが未熟者だから…?」

さくらは決まり悪そうに答える。

「勿論それもだ。そして、俺の言う事を守らねェからだ。」

「……。だって、やれると思ったんだもん。」

口を尖らせてすぐに反論して来たさくらに、高杉の眉間がひくりと動いた。

「それでな、一番の理由はなァ、」

先程よりも低い声に怒気を含ませ、

「てめェが弱ェからだ。」

強い調子でぴしゃりと言い放つ。

見るだけで射殺せるような視線つきだ。

「………はい。」

もう反論の仕様もない。

さくらは畏まって頭を垂れた。

確かに、自分の力量を過信し油断していたのはあった。

「もう戦には出させねェ。いいな。」

「え…!」

更なる追い打ちの言葉に、さくらは目を見開いて高杉を見た。


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