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切れた鼻緒を直してもらう為、草履屋を捜し、それを終えて店を出る頃には雨が降り出した。
晋助はどこへ行ったのだろう。
彼とはぐれてから、時間が経ち過ぎていた。今更捜した所で、彼を見つけられるはずもない。
仕方なく私は、舟へ戻る事にした。
傘を購入するのも馬鹿らしく、雨に濡れるにまかせて歩いた。
そして、桟橋に着いて愕然とする。
---停泊しているはずの舟が、そこになかったのだ。
…考えたくないが、おいて行かれた…、のかもしれない。
晋助なら、やり兼ねない。
手を煩わせられるくらいなら、切り捨てる事も厭わないような人だ。
---これから、どうしよう。
(………。)
桟橋のあたりをとぼとぼと歩く。
舟を捜そうか。
---捜して戻った所で、晋助の反応なんて何も無いだろうけれど。
私が自力で舟に戻れればそれで良し、戻らなければそれまで。
所詮、私は彼にとってその程度の存在。
降りしきる雨が、いやに冷たい。
だが、今の私には調度いい。
…涙が零れるのを自覚する前に流してくれる。
私の晋助への気持ちは、岩に寄せては打ち砕かれる波のようだ。
私がどんなに想っていても、意味がない。
想い続ける事が、惨めと感じるのはなんと悲しい事か。
それなのに、晋助の事が好きで、好きで、大好きで。
辞めてしまえばいいのに。
こんなに惨めで悲しいのに、まだ私はあの人に想われたいと願っている。
言葉で、行動で。
確実なものを示して欲しいと願っている。
「---さくら。」
今、私の背後に現れた、この人に。
言葉で、行動で。
確実なものを示して欲しい、と。
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