新選組屯所。


地方の田舎から上京して来たあたしは、ここで女中として働いてる。まだ見習い。

いろんな事があるけど、あたしはどんな事でも頑張れる自信がある。

だって、あの人はあたしより遥かに大変な仕事をこなしてる。

だからあたしも頑張らなきゃ、って思える。

ここは、そんなあの人が帰って来る所。


新選組一番隊隊長、沖田総悟。

大好きな、総ちゃん。





…なんだけど。


薄雲が月明かりに照らされて綺麗な今夜。


もう22時。


今日は、総ちゃんがなかなか帰って来ない。


最近、過激派攘夷志士がたむろしてる場所が見つかったとかで、新選組の中の空気は少しピリピリしてた。

偵察だけ、と土方さんと総ちゃんの二人で今日の朝方出て行ったのに。


こんな時間まで戻らないなんて。

悪い事ばかり考えてしまう。


近藤さんなら何か報告を受けてるのかもしれないけど、女中見習いのあたしが尋ねていい筈ないし、第一、総ちゃんがそういうのは嫌いだから、あたしは総ちゃんを信じて待つしかない。



   *********



結局、総ちゃんと土方さんが屯所に戻って来たのは、日付をまたいだ少し後。


うとうとしていたあたしは、引き戸がガタガタ言う音で、はっと跳び起きた。

寝間着の上に羽織り物をひっかけて、玄関へ向かう。


そこに居たのは、土方さんだった。


「…なンだ、まだ起きてやがったのか?」

土方さんは、引き戸を静かに閉めながら、あたしを見た。

「お帰りなさい!
遅いので、すごく心配しました…。」

「…そうか。悪かったな、心配かけちまって。」

土方さんは、靴を脱いであがると、首に巻いてあるスカーフをゆるめてシャツのボタンを外し、タバコをくわえた。

「明日も早ぇだろ。もう休め。
大丈夫だ、総悟も一緒に帰って来たからよ。」

すれ違い際、安心しろと言うように、ポン、とあたしの頭に手を置いて、月明かりしかない廊下を歩いて行く。


土方さんの後ろ姿をよく見たら、隊服はボロボロで、なんで帰って来るのが遅かったのか、合点がいった。

攘夷志士の偵察に行ったのだろうけど、結局一掃して来たんだと思う。

だって、総ちゃんと土方さんが揃えば、無敵だから。








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