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ピリリリリ…
携帯の呼び出し音が鳴る。
また来島か?
このシロモノは来島のモンで、所用で二週間舟を空ける俺に無理矢理持たせて来やがった。
日々の報告だとか言いながら、頻繁にこの不快な音を鳴らしやがる。
今日はどうせ舟に戻る。報告なんざ帰ってからで構わねェ。
しつこく鳴り響く機械音にこめかみをひくつかせながら、電源を切る為に二ツ折りの携帯を開いた。
番号通知がそのままディスプレイに表示されている。
相手の名前が出ねぇって事は、来島も知らねェヤツか。
めんどくせぇ、切っちまうか。
そう思って、何とはなしに番号を流し読んで、
「……、」
よく見りゃ見知った番号だと、はっとする。
あいつから架けてくるなんざ、珍しいこともあるモンだ。
俺は通話ボタンを押して携帯を耳にあてた。
「……も、もしもし…?晋助…?」
躊躇いがちに尋ねる女の声。
「あァ、俺だ。さくら、どうした?」
電話の相手は、さくら。
俺を骨抜きにしやがった、どうしようもねェ愛しい女。
「…うん、あたし。あのね、今話しても大丈夫?」
「あァ。」
「よかった。ありがと。」
さくらは、安心したように声の調子を明るくした。
コイツが電話してくるなんざ、なかなかある事じゃねェ。
俺が携帯を持たない所為もあるが、いつも何をするでも、忙しかねェかだの迷惑じゃねェかだの、気ばっか遣いやがる。
好きにやりゃあいい。
お前の我が儘ならいくらでも聴いてやる。
「…ごめんね、晋助が帰るまで、ちゃんと待ってようと思ってたんだけど、来島さんから番号聴いて架けちゃった。」
「あァ。」
「……あのね、…、その…、」
言いかけては口ごもるさくら。
「----晋助、今日、戻って来るんだよね?」
「あァ、そのつもりだ。」
「……、」
おずおずと尋ねて来たと思ったら、また言葉を詰まらせる。
「どうした?」
「……晋助…、」
「あァ。」
「…早く、帰って来て。晋助がいないと…、逢いたい、晋助。」
切なげな声でさくらが言う。
----あぁ、どうすりゃいい。
こいつにこんな声で淋しいと言わせてんのは俺か。
それなのに、
「…クク、かわいい事言うじゃねェか。電話しちまう程逢いたかったか、俺に…。」
こいつが俺を恋しがるのがこんなに嬉しいだなんて、相当焼きが回っちまってらァ。
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