1
万事屋の前に着いて、時計を見たら、21時を過ぎていた。
あたしは、階段をゆっくり昇る。
今日は忙しくて、ほんとに疲れた。
ほんとにほんとにへとへとで、仕事中のテンションも下がりっぱなしだった。
こんな時は、無性に逢いたくなる。
嫌なことも疲れも、銀時に逢えば吹っ飛ぶから。
やっと階段を昇りきって、玄関前まで来た。
万事屋の中には明かりが灯ってるから、ちゃんといるみたい。
玄関を開けようとしたら、自動ドアみたいに戸が開いた。
「っわっ、」
勢い余って、あたしは前につんのめる。
そのまま倒れ込むかと思ったら、そこには、いつもはない逞しい壁があって、あたしはそれに頭をぶつけた。
「おかえり、さくら。」
「銀時!」
逞しい壁は、銀時の胸だった。
「足音でお前だと思った。」
銀時はそのままあたしをぎゅうと抱きしめる。
銀時の腕の中は、広くてあったかくて、安心する。
お風呂あがりなのか、微かに石鹸の香りがした。
「よくあたしだって分かったね。」
銀時の胸に顔をうずめながら、あたしが言うと、
「そりゃあ、お前。愛だろが、愛。」
当然、という風に銀時は笑った。
あたしの額に口づけをして、腕を解く。
「ま、玄関先で、ってのもアレだから。あがれよ。神楽もいねーし。」
「うん。」
あたしは銀時の後に続いて中へ入った。
.
[*前] | [次#]
▼戻る▼TOP