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「…ひとつ、聴かせてくれねェか。」
高杉は、刀の切っ先は彼女に向けたまま問うた。
「今まで、何があっても執念深く俺を追って来た理由は何だ?新選組隊士だからか、それとも私怨か?」
興味があった。
今日に至るまで、ただひたすらに高杉を追って来た彼女の理由。
ここまで彼女を駆り立てて来たものは何か。
高杉が向けた刃の先の彼女の瞳は、今もなお絶望に染まる事なく、強い光を宿している。
彼女は、高杉の隻眼を見据えて言った。
「----信念だ。私はそれを貫き通すのみ。」
宵闇に凛と響いた彼女の声。
彼女の瞳の光は、彼女の命の光そのもの。
その光こそ、信念。
「…なるほど。なら、そのお前さんの信念ってェのは一体何だ?」
尋ねてから高杉は、自分がいつもより饒舌な事に内心苦笑する。
今、切り捨てようとする人間にあれこれと尋ねてどうしようと言うのか。
「…私の信念、それは、忠義だ。御国の為じゃない。新選組への、局長への、な。その為なら命を賭ける。」
彼女はその信念の下にこうして戦って来た訳だ。
幕府の害虫である攘夷志士を掃討するのが、彼女の使命という訳だ。
その為なら、殉職も厭わない、と。
「…フ、」
高杉は、微笑った。
いつもの狂気じみた嘲笑ではない。
立場こそ違えど、生き方は同じ。
自分もまた、一つの目的の為に生きている。
同じものを持った者を前にして、自然と零れた笑みだった。
「志しの為に生き、その下に死ぬ、か…。その生き方ァ、嫌いじゃねェよ。」
高杉は、左足をじりと半歩退き、刀を逆手に持ち替える。
彼女はそれを見て、唇を引き結んだ。
終焉の刻だ。
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