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「…えー、では、ここでさくらに問題です。」
いつの間にかタバコをくわえて、ふーと煙を吐きながら、先生が口を開いた。
「さて、#NAME3#は何の日でしょうか。」
「…え…、」
あたしは、顔を上げる。
それは、あたしの誕生日。
「その日、俺は何かの用事でどこかへ出掛けました。さて、何の為に、どこへ行ったのでしょうか?」
先生は、じっとあたしを見据えて言う。
その日、あたしが働いているファミレスに来てくれた。
出張だったくせに、会いに来てくれた。
---あたしの誕生日だったから。
あたしを独りにしないために。
「…答えは、多分お前が考えてるので正解。」
先生はどこか観念したような顔をして、ふっと笑った。
「…先、生…、」
あたしは、信じられない気持ちで、先生を見つめる。
「…ったく、いつまで俺を焦らす気だ、オメーは。」
先生は、嘆息しながら頭をガシガシ掻いた。
「…先生…、ほんとにあたしの為に…、」
いつの間にか、廊下で向かい合っていたあたしと先生の距離は縮まっていて。
すぐ目の前に、先生が立っている。
「遅ェんだよ。気付くの。」
先生は、鈍感、と言ってあたしの鼻を軽くきゅっとつまんだ。
「さくらは先生にしときなさい。大切にするから。」
どうしよう。
嬉しい。
たまらなく、嬉しい。
先生の手が、あたしの後頭部を掴んで、先生の胸へ押し付けた。
「…黙ってんなら、俺のモンって決めちまうぞ。」
大きくて広くて逞しい胸。
優しい、先生の心臓の音。
微かに香る、甘いイチゴ牛乳とタバコの匂い。
「…好きだ、さくら。」
あたしはおとなしく先生に抱きしめられる。
そして、あたしの腕も先生をぎゅっと抱きしめる。
それがあたしの答。
---今度恋をする時は、ちゃんとあたしを想ってくれる人と、ちゃんと恋をしよう---
あたしが次に恋した人は、恋をするにはあまりに贅沢な人。
#NAME3#。
---誓ったのは、お前の生まれた大切な日に、お前を独りにしない事---
fin.
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