5
---2日後。
休み明け。
朝のHRの時間。
定時を過ぎても担任は現れない。
3Zの皆は好き勝手に時間を過ごしてる。
まだかな、銀八先生。
風邪でもひいて休みとか?
そんなはずないか。
早く来ればいいのに。
---なんとなく、顔が見たいと、そう思った。
「ねー、お妙ちゃん。今日って銀八先生休み?」
あたしは、前の席のお妙ちゃんの肩をたたいた。
「来てるわよ。でも校長に呼ばれてるみたい。」
「え、なんで?」
「出張の日、寝坊して夕方から講義に参加したのがバレたんですって。」
…出張の日…?
「銀ちゃんはそのたるんだ性根を直さないとだめネ。悪い教師の見本アル。」
横から、神楽ちゃんが酢昆布をくわえながらニシシと笑った。
---出張の日。
#NAME3#。
あたしの誕生日。
先生は、出張の日を勘違いしたと言った。
…ううん、違う。
先生は前の日からちゃんと準備してた。
間違えたりするはずない。
寝坊なんてしていない。
その日、先生は、昼間はずっとあたしのバイト先で…---
---はっとする。
これは限りなく確信めいた憶測。
---どうしよう、居てもたってもいられない。
---…先生、銀八先生、
「さくらちゃん?」
「さくら、どうしたアル?」
「---ごめん、あたしちょっと…!」
お妙ちゃんと神楽ちゃんの二人に呼び止められるのも構わずに、教室を飛び出した。
廊下を駆ける。
---ありえない。
こんな簡単に気持ちは変わるものなのだろうか。
だってあたし、フラれたばっかりだなのに。
それなのに、たったこの3日間で。
いや、もしかしたら、ずっと前からあたしは---
---バカな先生。
#NAME3#。
傍に、いてくれたんだ。
仕事、犠牲にしてまで。
だからあんなに真剣にパソコンと向かい合ってたんだ。
講義一日分の課題をこなしてたんでしょう?
ねぇ先生、それはどういう意味?
先生のクラスの生徒だったら、皆にそうなの?
---それとも、あたしにだけ?
あたしの上履が廊下を駆ける足音と、聞き慣れた安物のサンダルがやる気なく響かせる足音が重なった。
校長室から出て来て、いつもと変わらずだるそうにこちらへ歩いて来る男。
(……銀八先生、)
あたしは立ち止まる。
「---さくら。
どうした?HRの時間過ぎちまったから、迎えにでも来てくれた?」
校長に搾られた筈なのに、先生は、何事も無かったかようにいつもの調子で言った。
「…聴きに来たの、あたし。」
「あん?」
「…#NAME3#、やっぱり出張だったんじゃん…。」
あたしの誕生日だって知ってて、だから居てくれたんじゃないの?
そう思うのは自惚れ?
先生に期待しちゃ駄目?
---あぁ、尋ねたい言葉こそ全然口に出せない。
もごもごと口ごもるあたしを、先生はただ見つめ返して来る。
勢い余って教室を飛び出して来たものの。
引っ込みがつかなくなった気まずさに、あたしは俯いた。
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