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期末テストが終わって、明日から3日間のテスト休みに入る。
そんな、生徒にとっては心浮かれる日の放課後。
下校時刻はとっくに過ぎて、校内に人影はない。
誰もいない夕暮れの教室。
あたしは自分の机に突っ伏して、暮れ行く空を、窓越しにただぼんやりと見つめていた。
フられた。
しかも、ついさっき。
他の女とじゃれ合ってる姿を見つけたものだから、たまらず詰め寄って問いただしたら、あっさり切り捨てられてしまった。
恋は追うより追われた方が良いというのは、あながち間違っていないのかもしれない。
自分から告白したけれど、結局3ヶ月しか続かなかった。
意外に涙は出なかった。
正直、つきあっている間も、想われているという実感は殆ど無くて。
もしかしたら、あたしはこうなる事を心のどこかで感じ、覚悟をしていたのかもしれない。
けれど、どうしようもない虚脱感の様なものがあるのは確かだ。
ここから動く気力も湧かず、さっきからずっとこんな状態で、だらしなく机に伏せっている。
つき合っているといっても、別段何が楽しいというわけでもなく、相手の顔色を伺うだけの無意味な日々だった。
今度恋をする時は、あたしをちゃんと想ってくれる人と、ちゃんとした恋をしよう。
…カタン。
物音。
---人の気配。
「…なんだァ、さくら。まだいたのか?」
教室の入口から、ひょっこり顔を出したのは---
「…銀八…先生。」
「もう学校閉まるぞ。」
あたしはのろのろと顔を上げ、教室に入って来る銀八先生を見た。
いつも羽織っている白衣は着てなくて、スーツ姿に片手には大きな書類鞄。
「先生こそ何してんの、マジメなフリしてそんな大きな鞄まで持ったりして。」
あたしは不審者でも見るような目付きで先生の全身を眺めた。
「俺は明日から3日間出張なの。これはその用意。お休みで浮かれてるお前らとは違って忙しいんですぅ〜。」
…あ、何その言い方。
なんかイラっとするんですけど。
傷心中のあたしに向かって。
「ハイハイ、それは大変ですねぇ〜。」
ムカつくから、同じような調子で言い返してやった。
先生にそっぽを向いて、また窓の外へ視線を投げる。
別に夕焼けなんて見たいわけじゃないけど。
加えて、別に悲劇のヒロインぶりたいわけでもないけど。
今日だけは感傷に浸って浸って、そうして明日からは気持ちを切り替えるんだ。
「…どーしたよ、元気無ぇなァ?」
銀八先生が、あたしの顔を覗き込んで来る。
ちょっ、こっち見ないでよ。
「先生帰っていいよ。あたしも学校閉まる前には帰るから。」
顔を逸らして答えると、先生は
、ふーっと息を吐いて隣の席に腰を下ろした。
「ンな顔してる生徒残して帰るワケには行かねーだろが。」
なに、その無駄に熱血教師みたいなセリフは。
いつものやる気無いっぷりかまして帰ってくれればいいのに。
「…………。」
「…………。」
しばらく、あたしも先生も、無言で窓を見つめてた。
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